治療の副作用による倦怠感と気分の落ち込みに悩まされていたころ。この経験はいつか役立つはずだという記者魂から、映像や画像で記録を残していた
治療の副作用による倦怠感と気分の落ち込みに悩まされていたころ。この経験はいつか役立つはずだという記者魂から、映像や画像で記録を残していた
【写真】鈴木さんが出産した直後のようす

 後ろ向きだったメンタルを前に向ける契機になったのは、乳がんの経験を活かして患者支援に活発に活動している女性と出会ったことだ。

若年性がん患者向けのフリーペーパーを創刊

その方はマンションの一室で、がん患者向けのウィッグや下着を試着しながら選べる場を設けていました。『私にも、がんになったからこそできることがあるはず』と思えたんです

 その後、持ち前の行動力と発信力を発揮。当時SNSの主流だったミクシーで、若くしてがんになった仲間を探し、若年性がん患者向けのフリーペーパーを創刊した。

乳がんが増える40歳以降に比べると、20代30代の患者は少ないので、ひどく孤独でした。同じような思いをしている人に『ひとりじゃないよ』と伝えたくて、若年性がん体験者10名のインタビューを載せたんです」

 当時は今以上に、がんであることを隠す人も多く、顔出しOKの体験者を募るのには苦労したが、反響は大きかった。「私だけではないと力づけられた」と賛同者が増え、若年性がん患者団体として活動を拡大。現在、会員数は約1000人に及ぶ。

 鈴木さんは手術の翌年、テレビ局の仕事に復帰。その傍ら、さまざまながん患者支援活動に関わっていく。大きな転機となったのは、英国発祥のがん患者支援施設「マギーズセンター」の存在を知ったことだ。

 そこでは、がん経験者や、その家族や友人、医療者など「がんに影響を受ける人」が自由に訪れ、専門職と相談したり、語り合うことができた。建築デザインも、家のリビングにいるような、くつろげる配慮がなされていた。

『私が望んでいたのはこれだ。このまま日本に持って帰りたい!』と思いました(笑)

 鈴木さんはその後、日本版マギーズセンター設立に向けて動き出す。同じ思いで活動をしていた看護師の秋山正子氏と協力。資金集めや用地確保から手がけ、2016年、東京湾岸の豊洲に「マギーズ東京」を開設した。

 昨年2月、鈴木さんは女の子を出産した。実は鈴木さん、生理が抗がん剤の影響で止まってから8年間なかった。さらに、鈴木さんの乳がんは女性ホルモンががんの増殖に関与しているタイプのため、女性ホルモンを抑制する治療を受けていた。女性ホルモンが減少した状態では生理の再開は難しい。ところが、妊娠、出産は思いのほか自然な流れで実現した。

マギーズ設立で忙しかったころ、胸が張って『再発かも……』と不安になって当時まだ彼氏だった夫に病院に付き添ってもらったんです。再発ではなかったんですが、先生から『いい人もいるみたいだし、ホルモン療法を終了して妊娠を考えてみますか』と言われ、それをきっかけに生理が戻ったんです

 翌2017年に結婚、2021年に妊娠がわかった。それまでは、出産を完全にあきらめてはいなかったが、仕事も充実していたので、結婚や出産をしなくても楽しめる人生を送ろうと考えていたという。

 母となった今、これまでにないような心境の変化を感じている。

私はもともと、つい仕事にのめり込んでしまうタイプ。でも、今は家族と過ごす時間を大切にしたいと、自然に思えるようになりましたね