退院時、初めて父娘がリアルに対面できた記念すべき1枚(写真撮影:Shino)
退院時、初めて父娘がリアルに対面できた記念すべき1枚(写真撮影:Shino)
【写真】鈴木さんが出産した直後のようす

 乳がん発覚から15年。そのバイタリティーあふれる活躍には驚くが、本人は「自分はまったく強い人間ではない」と話す。

がんになって得たものは多い

治療中は時計の秒針の動きに、寿命が縮まっていくような恐怖感を覚えたり、人の闘病ブログを見て怖くなったり……。今でも仲間の死には、もう立ち上がれないと思うくらい落ち込んでしまいます

 特に妊娠中は、これまで以上に乳がんになった事実を突きつけられることになった。

母乳指導のとき、助産師さんに『左胸からこれだけ出るなら、右胸の分を足せば足りますね』と言われたり。授乳室でもみんなのように胸をはだけられない。右胸を全摘しているからと説明するたびに、悲しくなったりもしました

 また、10年以上たったとはいえ、再発の可能性はゼロではない。娘の成長をいつまで見ていられるのかと、時折、不安になることもある。

がんになって、仲間や新しい生きがいなど得たものは多い。一方で、がんになったという事実は何年たっても変わらないんです。でも、弱い私が絶望や不安を感じていたときに、どんな支えが欲しかったか。それを、一人でも多くの患者さんに届けたい。その思いが原動力になってきたと思います

 マギーズ東京では、結婚、出産についての悩みを聞くことも多い。

病態も価値観も環境も皆さん違います。ですから、その方のお話によく耳を傾ける。そのなかで気持ちが整理できたり、答えを見いだせることも。その道筋を伴走できる存在でありたいと思うんです

 人の弱さを身をもって知っているからこその強さ。それが鈴木さんの力になっているのだろう。

マギーズ東京では、がんに詳しい専門職がいつでもお待ちしています。がんになった方やご家族はもちろん、そうでなくても、このような場があることを、ぜひ知っておいていただきたいですね

取材・文/志賀桂子

鈴木美穂 1983年生まれ。認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事。2006年に大学卒業後、2018年まで日本テレビに在籍し、報道記者やキャスターを歴任。2008年、24歳で乳がんに。自身の経験をもとに、がん患者支援や、行政の検討会委員への参加など、がんに関する問題解決に尽力している