目次
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ー 採れたての野菜を息子に食べさせたい
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ー 古民家を再生、畑料理の体験施設に

 2007年、40歳で子どもを授かったことを機に、住まいを東京から実家のある大分に移した女優の財前直見さん(57)。

 移住の背景には「女優でなく、人間として子どもと向き合いたい」という気持ちがあったようだ。新しい生活に欠かせないもののひとつが畑だった。

 大分には先祖代々の土地に父が営む1800坪の畑と1800坪の山があり、今の時季はゴーヤ、かぼちゃ、なす、ピーマン、かぼすなどが豊作。季節によってさまざまな作物が採れる。

採れたての野菜を息子に食べさせたい

「息子には、父が自分で作っている採れたての美味しい野菜を食べさせたいと思いました。東京だと全部お店で買うことになりますが、農薬を使っているかどうかも心配。父の畑で採れたものなら虫食いで見栄えは悪くても安心安全」

 農作業や収穫などの体験を通して食育ができることも、畑仕事の魅力だという。

「パッケージに入った野菜でなく、実際に実っている様子や、育つ過程などを子どもに見せられるのは畑ならでは。うちの山や畑では人の顔ほどもある大きなシイタケが採れたり、2股3股に分かれたユニークな大根が掘れたり、山芋を1本だと思って掘ってみたら3本出てきたり。宝探しのような楽しみも味わえます」

 ほかにもわらび、よもぎ、つくしなどが勝手に生えてくるので、それを探して収穫するのも都会ではできない貴重な体験だ。

 16歳になった息子は採れたて野菜を食べてすくすく育ち、好物は「じぃじの作ったシイタケ」。玉ねぎも収穫したてを生でかじると美味しいなど、畑のある環境ならではの味を知り、舌が肥えている。

「最近の子なので、もちろんゲームも好きですが、野菜の水やりや収穫の手伝いなどもしています。畑仕事をすることで、食物も同じ生き物であることを学び「いただきます」という感謝と、野菜やそれを作ってくれた人に対して「ごちそうさま」という気持ちが自然に育ちました」

 息子は祖父の姿を見ているので、いずれは自分も畑仕事を習得しないといけないと感じている様子とか。畑は息子が受け継ぎたいならそうすればいいし、そうでないなら畑仕事が好きな人に任せればいい。「畑は好きな人でないと続かないと思っています」と財前さんは言う。

 住まいから畑までは車で1時間以上の距離があり、畑の手入れは父を中心に行う。

「83歳になる父は元気で病気知らずです。入院したこともありません。毎日畑の草刈りをしたり、ゴルフに行っては『ニューヨーク(入浴)に行ってくる』と言って温泉とサウナと水風呂が日課なんですよ(笑)」

 移住して、自身の仕事の仕方も変わった。無理のないペースで仕事を入れるようになり、大分と東京を行き来することで、仕事とプライベートを切り替えやすくなったという。今はドラマの撮影で忙しい最中だが、月に2回は畑に通っている。

「草取りや収穫の手伝いをしています。よく『畑に行くとリフレッシュになるでしょう?』と聞かれますが、夏場は特に草刈りに追われますし、いつもやることがいっぱいで忙しい。でも収穫した野菜をどういうふうに、何を合わせたら美味しく食べられるかな?と考えるのはとても楽しい作業です」

 収穫したらなるべく早く新鮮なうちに食べきり、余ったものは自身で加工する。季節のものをその季節に収穫して食べる、という行為を通して、自然のありがたみや“もったいない根性”が育った、という。