目次
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ー 松田龍平や宮崎あおいの出演で映画化も
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ー ドラマではみどりをクローズアップ

 

 今年に入って良作ドラマを連発しているNHK。8月19日に最終回を迎える『舟を編む』も、活字好きな女性層を中心に好評を博している。原作小説の人気が高いと、往々にして映像作品は不評になりがちだが、本作が成功した理由とは?

松田龍平や宮崎あおいの出演で映画化も

宮崎あおい
宮崎あおい

 ご存じの方も多いと思うが、このドラマの原作は、2011年刊行の三浦しをん氏の小説で、12年には本屋大賞を受賞し、13年には松田龍平や宮崎あおいの出演で映画化もしている。

 本作の面白さは、誰にも身近な辞書にまつわる「へえ~」な知識を満載していることで、それはドラマでも存分に発揮されている。

 例えば日本の言葉は、あ~さ行で始まる言葉に集中しているそうで、改めて紙の辞書を確認してみると、確かにその3行分で半分近くまでいっている。電子辞書で引いていたら気づけないことだ(ちなみに筆者は暑中見舞いを書いていて、日本人の名字にも同じことを感じていたのだが、正しいだろうか?)。

 また、ドラマの編集部員たちが制作しているのは「中型辞書」だが、かの有名な広辞苑も「中型」なのだそうだ。無知をさらすが、私はてっきり大型だと思っていた。そして製本機械の限界が厚さ8cmで、その枠内に収まるよう、紙を薄くしたり、図版のイグアナのしっぽを丸めてスペースを削ったり、涙ぐましい努力をしている姿が描かれる。

 そして辞書作りに携わる人たちの「変人エピソード」も満載。街や店で気になる言葉を耳にしたときは、「用例採集」と称してすかさずメモを取る。辞書編集部主任の馬締(野田洋次郎)は、広辞苑を常に鞄に入れて持ち歩いている。アルバイト編集の天童(前田旺志郎)は普段から書棚に辞書を天地逆に立てている。くるっと引っ繰り返すように取ると、辞書を開くのに一行程少なくて済むといい、私もやってみたら本当にそうなので笑ってしまった。気持ちがいいので、ぜひみなさんにも試していただきたい。

 そんなふうに本作の登場人物たちは全員、生真面目さが笑いを誘うけど、仕事に対する情熱は人一倍。作業もかなり大詰めになって、主人公のみどり(池田エライザ)が「血潮」という言葉が抜けていることに気づき、「このまま黙っていようか」と逡巡するエピソードは印象的だ。だがすぐに思い直し、部員総出で他にも漏れがないか、25万2千語をたった2週間でチェックし直すシーンは、まるで大人の青春ドラマのよう。

 私もこれよりずっとスケールは小さいが、記事や本の校了直前でハッと間違いに気づき、「もう編集者に嫌われてもいいから直してもらおう!」という経験は何度もしているので、身に沁みた。

 でもここまでなら、お仕事ドラマの定石といえなくもない。このドラマが良作なのは、NHKの上質なアレンジと、誰にとっても身近な“言葉”を題材としているからだと思う。