24年5月、北海道・函館山。平日にも関わらず多くのインバウンドが訪れていた(編集部撮影)
24年5月、北海道・函館山。平日にも関わらず多くのインバウンドが訪れていた(編集部撮影)
【写真】平日でも大混雑! 銀座ユニクロや函館山に殺到する外国人旅行客

 確かに、大通りに観光バスを横づけするといった“あの光景”は、以前に比べるとほとんど見なくなった。

「今、日本を訪れている大陸からの中国人観光客は、比較的お金を持っている人たちです。団体ではなく個人で旅行を楽しむ、マナーや常識のある彼らは、日本に中国では体験できない食やおもてなしを期待している。『中国人はマナーが悪い』とひとくくりにするような考え方で接すると、大きな経済損失につながると思います。

 そうではなく、お金を持っているハイエンドのインバウンドには、価格設定もハイクラスにして、その対価に値するサービスを提案する。そういったプランがもっと出てきてもよいのではないかと思います」(何さん)

“日本人を怒らせると怖い”ということもきちんと伝えたほうがいい

 十把一絡げに扱わない─。この意見に、クレシーニさんも同調する。

「“インバウンドは”と主語を大きくすると、マナーを守っているインバウンドまで飛び火します。例えば、X(旧ツイッター)で迷惑行為を働くインバウンドの写真がさらされてバズることがよくあります。こういった行為が日常化すれば、インバウンド=迷惑を働く人たちという先入観が生まれ、溝が深まってしまうだけ」(クレシーニさん)

 黒い幕を張るまでに至った“富士山ローソン”にしても、きちんとルールを守って訪れたインバウンドもいたはずだ。だが、守れなかったインバウンドによって、現在は日本人を含む全員が見られなくなった。

「ルールを守れない人に罰金を科すなどは、真剣に議論されるタイミングにあると思います。また私個人は、交通機関などを利用する際に、インバウンド仕様の料金設定を設けてもいいと思う。ただし、在日(在留)外国人と訪日外国人をどう判別するかといったクリアすべき課題もありますが」(クレシーニさん)

 実際に海外では、国立や市立といった住民の税金が使用された施設は観光客価格が当たり前のように存在する。

制度化を進めるとともに、多数のインバウンドを迎え入れる国になったというマインドを、日本人も持つことが必要だと思います。何でもかんでも過敏になると、お互いによくない。大事なことはきちんと伝え、そうではないことはスルーする。そういう気持ちも大事だと思います」(クレシーニさん)

 寄せられたアンケートに、

悪気がないとしても、こちら側の生活に支障がある行為などには強い態度で臨むべき。“日本人を怒らせると怖い”ということもきちんと伝えたほうがいいと思う」(長野県・37歳・女性)

 とあった。インバウンドが増え続けるなら、私たちの考え方も変えていかなければいけない。

国内在住の日本人に聞いた迷惑系インバウンドの目に余る行動(要約)

・ゴミを散乱させる
・禁止と書いてあってもどこでも写真を撮る
・大きな声で話す
・雨で濡れたままお店に入る、電車に乗る
・母国語だけで話そうとする
・道に座り込んでいる
・許可など、ひと声かけない
・日本のルールを知ろうとしない

※インターネットアンケートサイト「Freeasy」にて4月中旬、全国の18歳以上70歳以下の男女500人を対象に自由回答で実施

取材・文/我妻弘崇

アン・クレシー二 アメリカ・バージニア州出身。言語学者。北九州市立大学准教授。現在は福岡県宗像市に暮らす。日本語能力試験1級所持。2023年11月、日本国籍を取得。著書多数。

何暁霞(カ・ギョウカ) クロスボーダーネクストCEO。中国マーケティング支援事業とメディア事業を展開する一方で、自身もインフルエンサーとして日本の情報を中国に向けて発信している。