女性の生きづらさがピョコルンに託される
空子の家は、新しくできたクリーン・タウンにある。父は“過去がなくて公平な街”と言うが、差別もいじめもある。空子は、子どものときから媚(こ)びて生きる術(すべ)を身につけていく。
家に愛らしいペット『ピョコルン』が来た。《パンダとイルカとウサギとアルパカが組み合わさって出来上がった生き物》で、《白い毛に囲まれたまん丸い愛嬌(あいきょう)のある目、短い4本の足》で歩く。
その姿は《健気(けなげ)で愛くるしく、キュー、キューと人間をくすぐる声で》鳴く。こんなに魅力的なペットがいたら、メロメロになりそうだ。
「“可愛らしさ”とか“女の子らしさ”とかを、肩代わりしてくれる生き物がいたらどんな世界になるのか。それを背負わせるというのは、どんな感覚なのか。それを知りたかったので、ピョコルンをつくってみたんです」(村田さん、以下同)
そこには、女性がかけられているプレッシャーがある。
「母に“将来、見初められる女の子になりなさい”と言われ、父方の田舎では“村田の血を受け継ぐ孫をつくってもらわないと”と言われ、育ちました。自分の“子宮”が監視されているな、と感じたんです。私の子宮は親戚とか村とかのもので、自分の自由にしたら怒られる。そんな感覚でした」
女性は子どもを産み、家族のために生きるべき、と育てられてきた読者も少なくないだろう。空子の母は家族の道具として使われる。家事全般にピョコルンの世話、舅姑の介護も背負わされ、いつも疲れている。
「(空子の)お母さんはあまりに救いがなく書いていて胸が痛かった」
ピョコルンはただの愛らしいペットから、女性の負担を担う存在へと進化する。