情けない自分が嫌すぎる

 実際に奨学金を返済している若者の声を聞いた。

 Aさん(男性29歳)。京都暮らし大阪勤務。手取り18万円。家賃6・5万円、電気・ガス・水道等2万円、携帯代1万円、食費2万円(週5000円)、交通費1・5万円、積み立て1・6万円、奨学金1・6万円。

「ここまで切り詰めても手元には3万円も残らない。友人からの誘いにも顔を出せなかったし、趣味は何もできなかった。本も買えなかったから、ひたすら図書館で借りて読むなどしていた。大事にしていたものもたくさん売った。

 一番つらかったのは、留学中の思い出としてアルバムに入れていたカナダの通貨を両替所に持っていって、500円に換金してそれで1週間しのいだこと。バイトも4つかけ持ちしていた。あとはいろんな意味で地元に帰れなかったとかもある。そもそもお金がなさすぎて帰る交通費も捻出できないし、情けない自分が嫌で、親に顔が見せられない。親の誕生日や母の日とかにプレゼントの1つも買ってあげられなくて……」

 Aさんの社会人生活の始まりは、経済的な理由でかなりつらいものになってしまったという。このような学生は決して少なくない。現状について、大野さんは語る。

「昔と違って、今の若者は夢や希望を語らないといわれますが、こんな借金を背負って、どうやって夢を見るのでしょうか。ゼロからのスタートなら希望も持てる。でもマイナスからスタートして、モチベーションが上がりますか? カップルで奨学金を借りていたら、2人合わせて600万円以上の借金があることになる。それで結婚をしよう、子どもをつくろうという気持ちになりますか?そもそも、奨学金の借り入れがあるのを理由に、結婚を断られてしまうケースもあるんです」

 現在も奨学金を返済中の、30代女性は語る。

「毎月1万5000円の返済って、借りたときは正直、なめていた。でも、歯医者に行ったり、家電が壊れたりとか、急な出費があるとすぐに家計がガタガタになる。毎月不安だし、余裕もない。こんなの借りたときには想像もしませんでした……」

 それゆえに進む晩婚化、少子化─。奨学金の返済は、日本の未来に暗い影を落とす社会問題となっている。

お話を聞いたのは……大野順也さん●株式会社アクティブ アンド カンパニー代表取締役社長兼CEO、奨学金バンク創設者、大学卒業後、株式会社パソナ(現パソナグループ)で営業を経験後、営業推進、営業企画部門を歴任。後に、トーマツコンサルティング株式会社にて、組織・人事戦略コンサルティングに従事。2006年、株式会社アクティブ アンド カンパニー設立。

<取材・文/ガンガーラ田津美>