任侠の一門に生まれながら歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に人生を捧げた主人公の一代記を描いた、吉沢亮主演の『国宝』(李相日監督)。週を追うごとに前週を上回り、公開3週目にして動員累計152万人、興行収入は約21億円を超える大ヒット中だ。
話題の2映画の共通点とは?
一方、小栗旬が主演、日本が初めて直面した新型コロナウイルスとの闘いがテーマの『フロントライン』(関根光才監督)も公開2週目にして動員累計60万人、興行収入が8億円を超えるなど好調な滑り出しに。話題の2作品の見どころや人気の理由、共通点などを、映画ライターのよしひろまさみちさんに聞いた。
「『国宝』は吉田修一さんの同名小説が原作ですが、そもそも原作が非常に素晴らしい。小説を書くにあたり、歌舞伎役者の中村鴈治郎さんのもとで、吉田さん自身が黒衣となり、舞台裏や袖だけでなく、鴈治郎さんの舞台に全部ついて回ってリサーチされたそう。だからこそ描けた、今まで表に出なかった伝統芸能の世界、役者への驚きや目新しさが、口コミを通じてヒットにつながったのだと思います。
『フロントライン』は、作品を見る人すべてが経験したコロナパンデミックの初期の話。鬱屈とした世の中、積極的には思い出したくない“あのとき”をリサーチに基づいて表現している。
特に上手だと思うのがメディアの描き方。冷静に情報を精査しなければならない人たちが、有象無象の情報に流されてしまう現実を描けたのが勝因のひとつではないかと思います。忘れてはいけないことを思い出させてくれる映画です」

どちらの作品も実力と人気を誇る俳優陣が集結。現実にあるもの、あったことをベースにしたフィクションで、いずれも長尺。
特に『国宝』は約3時間と長いため、1日あたりの上映回数も減るし、題材的にもシニア層の観客が多く、拡散が難しいのでは、との不安要素もあった。だが、実際はリアルな口コミ、ネットのコメントなどで若者も多く動員している。
「映画は、考えることが楽しみのひとつ。100人いたら100通りの見方があっていいと思っています。近年、映画に明確な答えを求める人が多く“わかりやすさ史上主義”に走りがちですが、今回の2作品に関しては、見た人のリアクションが千差万別。
『フロントライン』は、実際に皆が経験していることなので、自分ごととして落とし込めるし、『国宝』は、歌舞伎役者をテレビで見たことはあるが、実はまったく知らなかった世界を見せてもらう驚きがある。
『フロントライン』では、私はメディアのあり方に注目しましたが、人によって響くポイントはそれぞれ。“興行や予算の規模が大きい日本映画”という枠の中から、このような“考えさせる”2作品が出てきたのは、とてもうれしいですね」(よしひろさん)
この“国宝”級の日本映画2作品、ぜひ“最前線(フロントライン)”の映画館で見て、自分なりに味わうひとときを過ごしてみては?
取材・文/住田幸子(国宝・フロントライン)