生きてて楽しかったと笑いたい
抗がん剤の副作用では、脱毛と強い倦怠感を味わっている。脱毛は後頭部から始まり、最終的にすべて抜け落ちた。
「脱毛はまだ想定内でした。倦怠感がひどかった。身体の置き場がないような、表現しようのないつらさです。先生に伝えて抗がん剤を減らすこともできたのに、私は我慢しすぎたみたい。それは失敗でした。今の時代はがん=死ではなく、がんでも働いている人は多い。いかに体力を落とさずいるかが大切なのに、私は耐えなきゃと思って、結果回復に時間がかかってしまった。これから治療する人には、我慢しすぎないでと伝えたい」
手術の翌年、YouTubeチャンネル「卵巣がん ざいちゃん」を開設。闘病の様子を紹介している。
「抗がん剤の治療中、カメラのフォルダを見ていたら、笑顔がいっぱい残ってて。がんになってから、娘がずっと撮りためてくれていたんです。それを見た時、YouTubeを始めようと決めました」
告知を経て、術後に、放射線治療の経過まで。財目さんに向けられる視線は温かい。
「娘は“いつ会えなくなるかわからなかったからどんな瞬間も大事だった。禿げてる頭も愛おしくて、ママが嫌だと言ってもカメラを向け続けた”と言っていて。日常の何げない瞬間を残す仕事がしたいと、娘はカメラマンになりました。それはギフトでしたね」
YouTubeの登録者数は2万人を突破。視聴者には同じ悩みを抱えるがんサバイバーも多い。なかでも忘れられないコメントがあるそう。
「視聴者の方から“一命をとりとめました”という声をいただいて……。私の動画『がんのサイン』を偶然見て、“同じ症状だ”と病気に気づいたそうです。婦人科へ行き、そのまま緊急手術になったと聞きました。人の命に関わることを発信しているんだと、私自身逆に教わりましたね」
手術から5年がたった今、人工肛門も閉鎖し、がんは無事寛解を迎えている。
「当初は“来年の桜を見られたら”なんて言ってたけれど、5年たったら欲張りになって、“次は還暦を迎えたい。孫の顔が見たい”なんて言い始めています(笑)。大変な日々だったけど、同時に大事なものを受け取りました。病気になる前は、自分の頑張りが家族にとって喜びになると信じてました。だからずっと頑張って生きてきた。
でもがんになって、何もできなくなっても、家族は生きろと願ってくれた。こんなにも愛されていたんだと気づかされました。今はゆっくり自分の大切なものと向き合いたい。生きてて楽しかったなって最期に笑いたい、そう思っているんです」
ざいめ・かおり 気象予報士。元北陸放送アナウンサー。結婚後、子育てに奮闘しつつ勉強し気象予報士試験に合格。日本気象協会に勤務し各局で気象情報を担当。がんの治療中に『気象予報士かんたん合格ガイド』を執筆し、2022年に技術評論社より出版。YouTubeチャンネル「卵巣がん ざいちゃん」では病気の体験を発信している。
取材・文/小野寺悦子 デザイン/熊谷菜穂美(アトム☆スタジオ)