開幕直後から「隠れたばこ」が横行

 では、なぜこうした方針を改めざるを得なかったかといえば、冒頭で紹介したように、一部関係者による「隠れたばこ」が発覚したからだ。

 例えば、FNNプライムオンラインの報道によると、開幕から間もない5月初旬の段階で、万博関係者のルール違反となる隠れたばこの横行が伝えられていた。人目につかないバックヤードで関係者による喫煙が常習化していた。既に述べたように、当初より会場外に喫煙所は設置されていたが、パビリオンや土産物店などからは距離があることから、適切に喫煙所が使われず、関係者は人目を忍んで吸うという形で、ルール違反が行われていた。

 イベント運営側が「全面禁煙」という方針を打ち立て、煙のない理想のイベントを目指したわけだが、ルールを破っていたのがイベント運営側だったというのは、なんとも皮肉である。

 「全面禁煙の方針を設ければ、すべて解決」。そう思いたいところだが、現実には、全員がルールを守ってくれるという性善説に頼るだけでは、人によるルール逸脱を完全に防ぎきれない。

 難しいのは、たばこの煙は健康リスクにつながると考えられている一方、喫煙そのものは嗜好品としての文化であり、一般的な理解を得ている。愛煙家の行動を制限するのは、喫煙の自由を奪っていることにもなる。結果として、不満を広げ、ルール違反を招くことになる。健康の問題と、喫煙の自由を両立させていくにはどうしたらいいのだろうか。

海外研究から見るルールと現実のギャップ

インドネシア・バリ島のデンパサールアートセンター

 海外の研究からは、これらの課題を理解することが可能だ。

 世界有数のリゾートを擁するインドネシアの研究グループが2020年7月に国際的な公衆衛生専門誌に喫煙コントロールの難しさを報告している。

 研究では、バリ島の主要都市デンパサールにおける受動喫煙防止法が守られているか、また法律の遵守を妨げている要因が一体何なのかが調査された。

 デンパサールでは2013年以降、受動喫煙防止法が施行されているが、いくつかの障害に直面していた。というのも、地域全体の喫煙率が高いためである。喫煙習慣が日常に深く根付いている地域では、受動喫煙防止法を有効に機能させるのはなかなか大変だ。

 研究グループが538カ所を対象として法律が守られているか調査したが、法令を完全に遵守していた施設は32.9%にとどまった。礼拝所などの公的スペースで遵守率が低く、一方で大学では83.3%と高い遵守率が示された。