女優・栗山千明の真骨頂

 筆者の記憶に残っているのは11年のドラマ『リバウンド』だ。主人公の親友役だったが、そのさばさばした性格や、若いのに煙草を喫う姿が格好良くて、“神秘枠”は卒業して等身大の役も演じるようになったんだなと感じたものだ。20代、30代と年を重ねるごとに、その傾向は増していった。

 そして、アラフォーになった今、深夜ドラマで引っ張りだこな理由は、“意外な親しみやすさ”なのではないか。

 まず21年『ラブコメの掟』の「有能で恋愛経験豊富な編集者」という設定は、彼女のパブリックイメージどおりだったが、実は漫画オタクの恋愛初心者で、後輩からのアプローチにあたふたする姿は笑いを誘った。

『彼女がそれも愛と呼ぶなら』も、「3人の彼氏と同居」という設定を聞くと“魔性の女” を想像するが、実際には男たちの前で激しく落ち込んだり友達みたいに相談したり、魔性とは縁遠いムードだった。3人もの男と同時進行しながら、いやらしさを感じさせないのは、彼女の真骨頂といえよう。

 そしてもはや代表作になりつつある『晩酌の流儀』。毎日の晩酌に命を賭ける主人公は、汗をかいてビールを美味しくするためだけに、職場からスーパーまでダッシュしたり(信号待ちの時間もその場で足踏み)、すすんで着ぐるみの中に入って汗だくになったりする。そうした、美人なのにどこか行動が笑える役柄が、よく似合う。そして何より、喉をそらせてビールを飲む表情が実に美味しそうで、彼女自身がこの役を楽しんでいるように見えるのだ。

 ゴールデンタイムのドラマの主演は20代後半から30代前半がピークで、それを過ぎると徐々に縁遠くなっていく。近年は深夜ドラマが増えているが、ゴールデンと比べて尺が短いし制作費も安い。ゴールデンで主役やヒロインを演じていた中には敬遠する俳優もいる。その点、彼女は断らないし、出演すれば知名度があるから確実な視聴も期待できる。だから制作サイドに信頼されるのだろう。

 そして40歳を過ぎた今、近寄り難かった10代よりもむしろ、チャーミング度が増しているようにも見える。『彼女がそれも愛と呼ぶなら』では、若い恋人(伊藤健太郎)と一緒にいるところを見た女子高生たちが、「あんなオバサンと付き合ってんの? キモッ」と悪口を言うシーンがあったが、正直そのセリフには無理があるくらい、何の違和感もなかった。

 そんなところが、制作陣にも視聴者にも愛される理由ではないだろうか。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に『風景印ミュージアム』など。歴史散歩の会も主宰。