全国でクマによる農作物などに対する被害が増加している中、8月14日には北海道の知床・羅臼岳で男性登山客がヒグマに襲われ、命を落とす事故が起きた。ここ数年、毎年夏になると注目されるクマ出没のニュース。一体、何が起こっているのか?
相次ぐクマ出没ニュース、その理由とは――
「ヒグマが人里に姿を見せるようになった原因は、生息地域でのエサ不足や、生息数の増加、人に対する警戒心が薄れてきているなど、さまざまなことが考えられます」
こう話すのは北海道環境生活部のヒグマ対策室の担当者。北海道ではかつて、残雪期に「春クマ駆除」を行ってきた。しかし、個体数の著しい減少が懸念され、1990年に「春クマ駆除」を廃止。保護に重点を置いた施策に変更されたという。
その結果、1990年には推定生息数が5300頭だったのに対し、2022年には約2.3倍の1万2200頭に増加、生息域も北海道のほぼ全域に広がった。
「そうした経緯もあり、現在はヒグマの出没が社会問題になっていなかった2001~2010年、一部地域については1996~2000年の個体数まで戻す個体数管理を行う取り組みを進めています」(担当者、以下同)
基本的な生態としては警戒心が強く、臆病だとされているクマ。個体数が増えたとしても、人里まで下りてくるのはなぜなのだろうか。
「聴覚に優れていて音に敏感で、人を見たら逃げるといわれています。しかし個体差もあり、観光地などで人が間違ってエサを与えたりすることで人慣れして、人との距離感が近くなってしまったということもあると思います」
クマは食べ物に対しての執着心が強く、一度味を覚えると、その味を求めて人里でゴミをあさるという可能性もある。そこで、北海道ではクマと人間の生活圏を分ける、ゾーニング管理という方法を進めているという。
「市街地や農業など盛んな地域を排他地域、防除地域としてヒグマを寄せつけない。ヒグマの生息地との間に緩衝地帯を設け、管理捕獲や個体数管理捕獲を実施して、被害を未然に防ぐ管理方法です」
そこで問題になってくるのが、クマの駆除に対しての世間の声。「殺すなんてかわいそう」といった感情論も理解はできるが、クマの出没する地域に住む人にとっては、まさに命に関わる。駆除するのは当たり前、となるが……。
「人里で人間に危害を加える場合は捕獲はやむをえないわけです。なので、駆除を避けるためにもゾーニング管理など、クマとの共存を考えた施策を進めているんです。
私たちのところにも駆除に対してお電話をいただくことがありますが、どうしても感情論になってしまい、なかなかご理解をいただけない場合も、正直あります。それでも説明を尽くしていくしか方法はないかな、と」
自然保護と人の生活圏の保全。このふたつを満たす方法はあるのだろうか─。
取材・文/蒔田稔