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ー 破格の“給料”だったトキ

 放送中の朝ドラ『ばけばけ』(NHK)第6週では、主人公の松野トキ(高石あかり)が英語教師のヘブン(トミー・バストウ)の住み込み女中になることに苦悩する姿が描かれた。

破格の“給料”だったトキ

 ドラマでは、住み込み女中=ラシャメン(外国人の愛人)のように描かれたが、実際に住み込み女中は、主の愛人になるようなものだったのだろうか。

「おトキちゃんのような例は非常に珍しく、男性一人の家に若い女性一人が住み込むことは、通常考えられません。ドラマだけを見ると主人の夜の相手も務めるのが前提に思えますが、そのようなこともありません。

 ただ月給が20円という、単純計算で現代に換算すれば40万~80万円と破格で、若い女性が望まれるのは、何か裏があると思うのが普通ですよね」

 と話すのは、女中について研究をしている関西国際大学教授の清水美知子先生。

「主人から手を出されることがまったくないとは言いませんが、女中はその家の奥さんに使われる存在。住み込みの場合は、食事と住まいが保証されるので、どちらかというと安全なほうです。明治10年代で住み込み女中の給金は50銭だった例もあり、おトキちゃんのケースがいかにあり得ない金額かがわかります」(清水先生、以下同)

 上級武家で裕福だった、トキの生みの母であり親戚の雨清水タエ(北川景子)が、没落して物乞いにまでなってしまったことに衝撃を受けた視聴者も多いだろう。明治時代の女性はそれだけ職に困窮したということか。

「当時の女性の職業は非常に限られていました。おトキちゃんも最初は雨清水家で女工として働いていましたが、女工が盛んになるのはもう少し先の時代で、給金は1日10銭~30銭でした。

 おトキちゃんの友達のサワ(円井わん)は小学校の先生ですが、当時は女子の就学率が低かったので、まれだといえます。そもそも女性が家の外で働くということはよしとされていない時代でした」

 しかし、女中勤めは許容されていたそうだ。

「口減らしもありますが、自分よりも上の位の家で家事、裁縫、礼儀作法などを学べることもあったので花嫁修業のように見られていました。江戸時代のころから、結婚前に格の高い家で女中をすると、箔がついたんですよ」

 武家の若い女性を住み込み女中として所望している独身の外国人と一緒に暮らすことに、トキが苦悩したことは当然だっただろう。

「主人公のモデルになった小泉セツさんも相当な覚悟があったのでは。女性の貞操は今よりもずっと厳しい時代で、武家となればなおさら。お金のために仕方なく、というのが始まりだったと思います」

 生みの親と育ての親の2つの家を養わなければならないトキ。これからどうヘブンの女中から妻になり、幸せをつかみとるのか、目が離せない!