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ー 「社交」としての相撲鑑賞
ロンドン公演で優勝した豊昇龍。大の里とホットドッグを食べたことも話題に

 日本社会の現状に、「遅れてる! 海外ではありえない!」なんて目くじらを立てている人もいますが……。いえいえ、他の国の皆さんも有名人や王室のゴシップや下ネタは大好きで、若者はおバカなことをしでかすし、高齢者は変なこだわりで周囲を振り回すし、しょーもない男女のケンカも日常茶飯事なんですってば! 

 そんな、「衝撃」「笑える」「トホホ」がキーワードの世界の下世話なニュースを、Xで圧倒的な人気を誇る「May_Roma」(めいろま)こと谷本真由美さんに紹介していただきます。人間の思考回路や行動なんて、基本は一緒なんです!

「社交」としての相撲鑑賞

 日本では、34年ぶりに行われた大相撲ロンドン公演がメディアで大々的に取り上げられていたかと思います。ですが、現地ロンドンでは言うほど盛り上がっていなかったんですよ。

 というのも、チケットはVIP席が約20万円、そのほかでも5万円前後と高額だったため、とてもじゃないけど庶民には手が届かない。そもそも会場となったロイヤル・アルバート・ホールは、富裕層がボックス席を年間契約しているような場所。

 加えて相撲を見に来た人は、イギリス国内だけでなく、欧米のセレブが中心。そのため多くのロンドンっ子は、「スモウ?あぁ~、何かやってるらしいね」くらいにしか思っていないのです。

 実は、こうした富裕層の多くは、相撲に対する予備知識や理解なんてほとんどありません。彼ら彼女らは、自分が伝統ある外国文化に対して心が広い、インテリな人間であるとアピールするきらいがあります。「私、スモウも見に行ったのですわよ」と、誰かに言いたいだけ。「社交」としての大相撲ロンドン公演なのです。

 とはいえ、これってすごいことなんですよ。彼らは、絵画鑑賞やブックフェスティバルといったハイカルチャーなイベントに参加することで、自らを有識者だと名乗るわけです。

 つまり、欧米の人たちにとって、相撲は「ハイカルチャー」と見なされている証左だということです。浮世絵や歌舞伎にもいえますが、日本の伝統的な文化は、どういうわけか欧米人たちにとって意識の高い「ハイカルチャー」という位置づけなのです。

 考えてみれば、中国や韓国といったほかのアジア諸国の伝統文化のイベントに対して、欧米のセレブはさほど熱心ではないんですよね。日本文化だけ別格扱い。実際、私が訪れた大英博物館で開催された浮世絵、春画、マンガといった日本関連のイベントでは、主な来場者は富裕層の中高年でした。

 彼らは、マンガの原画を見ながらうんちくを語り合う─モディリアーニやカンディンスキーのような、現代美術の文脈で鑑賞していたりするわけです。しかし、次はパリで相撲興行があるらしいけど、もうちょっとチケット代、安くなりません?

谷本真由美 たにもと・まゆみ 1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。X上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いポストで人気を博す。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数

構成/我妻弘崇