『団地のふたり』が肯定してくれるもの

 例えば会社員でも、定年まであと5年として、その間もお金のために勤め続けるのか。その収入は捨てても、自分の充足のために時間を使うのかは、人生の残り時間を考えると非常に切実な問題になってくる。

 私がフリマで売るのは、仕事の資料として購入した書籍などが多いのだが、その一つ一つにいくばくかでも値段が付いて送り出すことで、これまでやってきた様々なことに決着を付けたい(成仏させたい?)からなのかもしれない。

 正直、「こんな生産性の低いことをやってていいのか」と頭をよぎることもあるが、売れて片付いた時の快感はなかなかだ。そしてこのドラマを見るとホッとする。「もう、そんなに頑張りたくない」という気持ちは、表立って言うのは憚られるし、誰も肯定してくれない。でも『団地のふたり』は、それを肯定してくれるから、支持されるのではないか。

 このドラマは大きな事件は起こらないが、原作はもっと事件が起こらない。

 個人的にツボなのは、ふたりが観ているBSの番組が、依頼者の家を片付けに行く実在の断捨離番組だったり、年末の買い出しをするスーパーが新宿にある私も日常的に利用している店だったりすることだ。架空でないから身近に感じる。

 さらに、なっちゃんが昔の楽譜をフリマアプリで売るくだりでは、一律2999円でオークションにかけるが、思いがけず9000円台まで値上がりするアーチストもいれば、300円まで値下げしても売れない人もいる。それがオフコースやアリス、イルカなど実名で出てくるのだ。この価格は、作者の藤野さんが実際にネットオークションをウォッチして反映させた結果なのか…などと想像して、ついニマニマしてしまう。

 頑張って広い世界を求めなくても、身の回りを慈しんで暮らすだけで、生活は十分に楽しい。

 本心では「もう、そんなに頑張りたくない」と思っている人は、ぜひ原作も手に取ってみてほしい。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。「3年B組金八先生卒業アルバム」「オフィシャルガイドブック相棒」「ヤンキー母校に帰るノベライズ」「IQサプリシリーズ」など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に「風景印ミュージアム」など。歴史散歩の会も主宰している。