リリーの直訴にも曲げない“美学”

 第3位には19票を獲得した第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』('95年)がランクイン。

「当時渥美さんは、病に侵されていて大変な撮影だったと後から知りました」(東京都・男性・72歳)

 くしくもシリーズ最終作となった本作。式場へ向かう花嫁姿の泉に「結婚をやめろ」と叫んで台無しにしてしまう満男。一方の寅さんは、リリーと奄美地方の加計呂麻島へ帰る。ハッピーエンドかと思いきや、最後に別れも告げず、震災から復興を目指す神戸に姿を現す。

 永遠の旅人・寅さんの面目躍如たるラストシーンは見ごたえ十分である。

「リリーを演じる浅丘さんが、渥美さんの体調を気にして“ふたりを結婚させて”と山田洋次監督に直訴したのは有名な話です。それでも結婚させなかった。そこが『男はつらいよ』の美学ではないでしょうか」(ウチダさん)

 22票を獲得して、第2位にランクインしたのは国民的女優・吉永小百合をマドンナに迎えた第9作『男はつらいよ 柴又慕情』('72年)である。これには、

「寅さんが織りなす人情味あふれる笑いと、マドンナ役の女優の魅力」(東京都・女性・75歳)

 などといった声が。

 金沢で出会った歌子(吉永)に寅さんはまたもや一目惚れ。温かい団らんに心惹かれた歌子も、「とらや」をしばしば訪れる。しかし歌子には陶芸家の恋人がいるが、父の反対にあい結婚に踏み切れないでいた。さくら(倍賞千恵子)夫婦に相談して、結婚を決意する歌子。心の内を隠して寅さんも祝福する。

「第1作から第6作までは、寅さんが一方的に惚れてフラれるドタバタ喜劇でした。しかし今作は、歌子が寅さんと知り合うことで、幸せになる新しいスタイルが生まれました」(ウチダさん)

 自ら身を引くことでマドンナを幸せにする。そんな寅さんの“究極の恋愛哲学”が生まれるきっかけとなる作品となった。