球速の高速化と変化球の進化

 提案が即座に承認されなかった背景には、戦術面への懸念も存在する。

「もし肩から手首までを完全に保護する強力な防具が認められれば、打者は内角球に対する恐怖心が薄れ、よりベース寄りに深く立ち込んでスイングできるようになります。そうなれば打者が圧倒的に優位となり、投手がリスクを冒して厳しいコースを突くインサイド攻撃の有効性も薄れてしまう。

 そればかりか、怪我のリスクがなくなることで、ストライクゾーン付近の厳しい球に対して防具を盾のように突き出し、わざと当たりにいって出塁を狙うような行為が横行する可能性もあります。これまでの配球のセオリーが通じなくなり、投手はアウトコースの高低だけで勝負せざるをえなくなり、打高投低の流れになることは容易に予測できます」(スポーツ紙記者)

 死球の多さに関しては、球界OBからも懸念の声が上がっている。元巨人監督の堀内恒夫氏は自身のブログで、変化球ではなく速球による死球が多い現状に触れ、コントロールやスタミナの課題を指摘。野球解説者の中畑清氏もテレビ番組内で、投手の技術や精神力の不足が死球につながっている、と苦言を呈した。

「NPB歴代最多となる通算196死球を記録した清原和博氏や、内角を突くシュートを武器にした東尾修氏の時代は、打者が意地でも腰を引かずに立ち向かい、投手も厳しいコースで勝負する緊張感がグラウンドに漂っていました。しかし、現代野球は球速の高速化と変化球の進化により、打者が避けること自体が極めて困難な球が増加しています。根性論や個人の技術だけに依存する従来の安全対策では限界を迎えているからこそ、防具の基準改定を含めた時代に即したルールの見直しが求められていると言えます」(スポーツライター)

 ネット上でも藤川監督の提案に対し、「この人は自チームの優勝だけでなくプロ野球界のことを本当に考えている」「拒否したNPBの理由も意味不明で、着用は選手の自由で承認しても良いのではないか」「150キロ前後が当たり前の今、“よけるのも技術”で済ませずNPB全体で問題提起して対策を考える必要がある」といった声が相次いでいる。

 藤川監督の切実な訴えが、プロ野球界の用具規定という「ルール作り」のあり方に一石を投じたのは間違いないだろう。