昨年1月下旬、早稲田大学で行われた『マスターズ・オブ・シネマ特別講座』にゲストとして登壇した山田洋次監督。その席で2006年公開、木村拓哉主演の『武士の一分』のウラ話も飛び出したとか。

「役者さんたちには、いつも“セリフで芝居をしちゃダメだ”と言っているそうなんですよ。このときも、木村さんの妻を演じた檀れいさんが、無言で夫に駆け寄るシーンの表情をつくるのに苦戦していた。

 言葉を発さずに表情をつくるというのは、難しいことなんですね。そこで、まずは彼女にセリフを言わせながら演技をさせたんです。

 徐々に檀さんはコツをつかんでいって、最終的には声を発しなくてもしっかりとした表情をつくれるようになった、と。監督ならではの発想だと思いましたね」

 と話すのは、講座に同席した早稲田大学国際情報通信研究科・安藤紘平教授。これまで『男はつらいよ』シリーズや『幸福の黄色いハンカチ』といった数々の名作を世に送り出してきた山田監督だが、こんなエピソードも告白。

「あのころは、とにかく就職難の時代でしたから。どこかに入って月給をもらわないと食べていけない。

 新聞社の試験は落ちちゃうし。松竹の試験にどうにかひっかかったというか。僕は補欠合格だったんですね。

 1度落ちたんだけども、映画に力を入れ始めた日活に鈴木清順さんとか大勢の人が行ったんで、補欠募集をするということになってそこにひっかかって。“これでとりあえず食べていける”と、そんなところから始まっているわけでしてね(笑い)」