12月12日公開予定の松竹120周年記念映画『母と暮せば』。メガホンを取るのは山田洋次監督。吉永小百合主演、嵐の二宮和也、黒木華、浅野忠信らの豪華キャストでも話題だ。
故・井上ひさしさんが広島、沖縄、長崎をテーマにした“戦後命の三部作”という構想を山田監督が引き継ぎ、映像化。しかし、映画のポスターなどに“井上ひさし”の名前はない。
その背景には、井上さんの三女で『こまつ座』代表の麻矢さんと、井上さんの後妻であるユリさんとの関係がうまくいってないことが関係しているという。
井上作品の著作権を持つユリさんが、12月にこまつ座が上演する『ひょっこりひょうたん島』に対し、『井上ひさし公式サイト』で反対の意向を発表。
またユリさんはこまつ座に対し、5月に上演する舞台の“著作権侵害差止請求仮処分申立”を東京地裁に起こすなど、親子ゲンカは法廷闘争にもつれ込んでいる。
日本の法律では、著作権者は作品に対して、大きな力を持っている。作品を上演する劇団や映画会社は、当然、著作権者の意向を無視するわけにはいかないのだ。
この状況に対し当事者はどのように語るのだろうか。麻矢さんが社長を務めるこまつ座に質問をぶつけると、こんな回答が。
「ホームページに書かれていることがすべてです」
その劇団のホームページには、
《『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』は、制作真っ只中です。素晴らしい作品になりますように、こまつ座は全身全霊で取り組んでいます。ご心配をおかけしてすみません》
では、著作権を持つユリさんはどう話すのか。自宅前で話を聞いた。
――『ひょっこりひょうたん島』の舞台化反対について、話し合いは進んでいるのでしょうか?
「いろいろ取材に来たけど、基本的にはノーコメントなの。ホームページに書いたとおりですよ」
――解決の方向に進んでいるのでしょうか?
「話し合いが進んでないですからね」
――『母と暮せば』も反対されているんですか?
「あれは山田さんの作品ですから。私がとやかく言う立場ではないですよ」
『ひょうたん島』での話し合いに進展はなさそうだが、『母と暮せば』に関しては、ひと安心というところだろうか。
ならばと、松竹へ質問状をFAXで送ったが、締め切りまでに返事をもらうことはできなかった。
最後に、井上ひさしさんの元妻で麻矢さんの母、そしてこまつ座の創立にも関わった西舘好子さんにも、この状況について聞いてみた。彼女は、麻矢さんから1度も相談はないと明かし、こう話す。
「井上さんとぶつかっていた私と違い、ユリさんは穏やかな家庭を築き、彼の執筆を助けた女性です。なので、井上さんが大切にした作品やこまつ座も寛容な目で見てほしいですね。井上ひさしは文化としての公器なんです。もし、井上作品が上演できないのであれば、それは著作権者も、こまつ座も、ファンも傷つくでしょうね……」