羽生結弦のジュニア時代から現在までの約8年間を取材してきたスポーツライターの野口美惠さん。

「24時間、365日、成長したいと思い続けていることがスゴいです。普段の練習中でも発見があれば、常に成長につなげる姿勢です。アイスショーの中でもライバルたちの演技を見て刺激を受けたり、常にアンテナを張っていますよ」

 そんな彼女の著書『羽生結弦 王者のメソッド 2008-2016』(文藝春秋)が発売された。

 この本は、そんな野口さんが30時間もの取材テープをもとに、羽生のスケート人生とその中での葛藤、そこから生み出された成長するための方法である“羽生メソッド”を具体的に解説したものだ。

「初めて4回転サルコウを降りたのも、通常の練習中ではなく、アイスショーの練習中でした。ほかの選手にとっては先生も見ていないし、本気で練習するというものでもないのに、彼はそんな場でも成長しようと思っているんです」(野口さん)

 また、こう続ける。

「ちゃんと考えて、課題を見つけて取り組めば、壁を越えられる」

 ソチ五輪シーズンのGPシリーズで、パトリック・チャンと3戦連続で対決。チャンとの得点差や、彼を前にしたときの自分の精神状態を、試合ごとに振り返り、課題を見つけていったことで成長できたのだという。

「彼はライバルがいると頑張れるということを理解していて、意識的にライバルをうまく成長につなげるようにしています。

 “わぁ、すごいな”と漫然と見ているだけではなく、“ああいう演技をするにはどうしたらいいのか”と考えるんです。“あの人は持ち味が自分とは違うけど、ここがいいと思う”という部分があれば、必ず吸収しているんですね」

 そんな羽生にとって、ライバルはむしろ強いほうがいいようだ。6年前、チャンの滑りを初めて目にしたとき、こう告白。

「悔しすぎて、うれしくなってきました。強くなる要素がまだまだある」

 自分の弱さと向き合う勇気さえあれば、失敗も伸びしろになることを知ったのだ。ただし、やみくもに頑張ればいいというものではない。17歳でカナダのトロントに渡ったときは、こんな発言も。

「闘志だけでは勝てない、バランスが大事」

 誰よりも熱いものを秘めながら、氷上ではクールにすら見えるのも、そんなバランスを重視しているからだろう。本人いわく、

「自信は必要だが、過信になってはいけない。闘志は大事だけど、自分に集中することも必要」

 それゆえ、頭もフル回転させている。野口さんによれば、「誰がどんな成績だったかをよく覚えている」のだそう。

「“あのときにはこの技で〇〇点が出ていたよね”など、選手の得点や成績をスラスラ言えるんです。ほかにも“あの人のジャンプの入り方はこうだよね”“いまのスピンはレベルがとれていないけれど、姿勢がいいし加点がつくね”など、ほかの選手の演技をすごく分析しています。

 よく見ているからこそ、いいものがあれば吸収しようとしている。普通の人なら、意識しなければ分析できないのに、彼は何がよくて何が悪いのかを自然と分析しています。そこが彼のスゴいところなんです」