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 ネット上の匿名投稿「保育園落ちた日本死ね!!!」が民意の発火点になり、結果的に政府を突き動かした待機児童問題。

 1年前、厚生労働省が発表した待機児童数は約2万3000人。やむなく認可外の保育所に通うケースなどを加えた「隠れ待機児童数」は約8万3000人とはじき出された。

 子どもを預けないと、働きたくても働けない。働きたいけど子どもが預けられない。巨岩のように立ちはだかるこの矛盾が、働く世代にさらなるストレスを押しつける。政府は3月28日、待機児童解消に向けて緊急施策を打ち出した。

 小規模保育所の定員を広げたり、認可基準を満たす施設の積極的認可をすすめたりと、受け皿拡大を狙っているが、保育の専門家は冷ややかだ。『保育園を考える親の会』の代表、普光院亜紀さんは、こうバッサリ。

「選挙の前に何かしらやっているっていうのを見せなきゃいけない、というのかなぁ。もし、保育の現場を知ったうえでこれを出していたなら、すごい悪意があると思います。私は、知らないと思って善意に解釈していますけれど、知っていてこれを出すなら、失望してしまいますね」

 そして、こう続ける。

「一番の問題点は保育士さんが不足していること。保育士の処遇改善の方針さえ盛り込まれていないというのは、残念に思っています」

 世間の父母が求めていることは、安心して子どもを預けられるかということだが、今回の施策の内容について、元帝京大学教授で保育学研究者の村山祐一さんは、こう語る。

「まず『短時間正社員制度の推進』ですが、朝来た人は午後勤めない、午後に来た人は午前中の様子がわからない。このつなぎをするのは常勤の人です。負担が増え保育士の労働環境をさらに悪化させます」

 普光院さんは、こう指摘。

「保護者として認めがたいですね。2時間、3時間で先生が代わってしまったら保育として安定性に欠けます。体調の見守りだったり、なにより事故につながる可能性があります」

 『保育園等への臨時的な受入れ強化の推進』について村山さんは、

「これは国の基準より厳しい基準を定めている自治体に緩和を要請するという話ですが、実際は保育の実態に合わせて国の配置基準を自治体が改善しているわけです。改善していることを国が学んでほしい。1歳児は保育士1に対し子ども6なんですが、県によっては1対4にしているところもあります」

 国は自治体が改善した基準を無理やり緩和すると言っているのだろうか。

「あくまでお願いベースで自治体の考え方に沿って運用していくものです。保育の質といいますが、国の基準を下回らない範囲で、という話です。強制的に変えましょうということではありません」(厚生労働省保育課)

 今回の施策自体が場当たり的な対策なのではないだろうか。

「現在やれることからやっていこうね、という話です。あくまで緊急的な対応ということですので」

 これに対し村山さんは、

「劣悪な基準を作っていいと厚労省が言っているのと変わらない。国が保育を悪くするように公言しているなんて考えられない。ただ体裁のために発表しただけの骨抜き施策です。働く場を、預ける場を作ればいいと単純に考えている。これでは“労働厚生省”ですよ」