■圧力容器が割れる老朽原発のリスク

「原発は老朽化するにつれ配管が腐食して割れたり、電気配線が劣化したり、コンクリートがひび割れていきます。なかでもいちばんの問題は、原子炉の炉心から飛び出した中性子線が圧力容器が脆化、つまり劣化させることです」

 そう話すのは東京大学の井野博満名誉教授(金属材料学)。老朽原発研究の第一人者で、その危険性を警告し続けてきた。

 原子炉内で起きた核分裂に伴い中性子線が発生すると、それが炉心から外へ飛び出し、圧力容器の内側に当たってダメージを与える。

「これを『中性子照射脆化』と言いますが、老朽原発では、中性子線が金属を硬くさせる現象が起こります。力が加わると、割れないで変形するのが金属の特徴。しかし、この現象で硬くなった金属は弾力が失われて変形できないため、ちょっとしたひび割れでもあればそこからパリンと割れてしまいます」

 また金属は、劣化が進むと『脆性遷移温度』と呼ばれる、ある温度を境に割れやすくなるという性質を持つ。最初はマイナス数十度でも、時間がたつにつれ徐々に上がっていくため、20年、30年という歳月をかけて、マイナスどころかプラスの温度に転じてしまうというのだ。

「運転開始から40年がたつ関西電力高浜原発(福井県)の1号機は、この温度が99℃。高温であるほどリスクは高くなります。

 というのも、地震などの緊急時には、緊急炉心冷却をして圧力容器を冷やさねばならないからです。

 急に冷たい水が注入されることで圧力容器に亀裂が生じやすくなります。ガラスのコップにお湯を注ぐようなもの。割れてしまう。原発も、同じ状態になる恐れがあります」

■“40年で廃炉”のルールには抜け穴が

 高浜原発1、2号機は原子力規制員会に再稼働を申請、“40年で廃炉”のルールがあるにもかかわらず今年4月20日に「合格」してしまった。

「40年ルールには抜け穴があります。1回限り、運転を20年延長できるという“特例”が設けられているからです」(井野さん)

 古い自動車を運転して怪我をしたり、人を傷つけたりする恐れがあると、保険代が高くつくことでブレーキがかかる。安全な車に買い替えようか、そもそも車をやめようか。そういう発想になるのが一般的。

 ところが、原発に関して電力会社の考えは異なるようだ。前出の飯田さんは言う。

「例外がむしろ本則になるような形で、次から次に40年超えの原発も延長を図ろうとしている。それが日本の現状です」