「がんになっても人生は続く。その人生をどう生きるか」(山崎多賀子さん)

 本業のかたわら病院や患者会などで、乳がん患者に向け、『キレイの力』を伝える活動を行っている美容ジャーナリストの山崎多賀子さん。

「抗がん剤治療中の患者さんに、メイク講座をすると、みなさん別人のように、イキイキした表情に変わります」

 2005年に、自身も乳がんが発覚。抗がん剤治療を受けた経験が、活動のきっかけになった。

「抗がん剤治療中は、髪だけでなく、眉毛、まつ毛も抜け、肌もどす黒くなりました。つらい治療を受けながら、外見も変わり果ててしまうと、気分も落ち込む。そんなときメイクが力を発揮するんです。女性は“外見”がキレイになると、気持ちもポンと上がる。“内面”を変えようとするより、ずっと簡単なんです

 山崎さんが教えるのは、がん患者用の特殊なメイクではない。使用するのも、一般用の化粧品のみ。わずか10分足らずで仕上げられる。

「くすみをコントロールカラー(色つきの下地)で取る、眉頭は眉骨の位置に描くなど、いくつかポイントはありますが、基本的には一般のメイクと同じです。ただ、“なぜそうするか”をイラストで論理的に説明するので、患者さんは納得しやすいんです」

 セミナーでは、ドラッグストアで買える千円台の安価な化粧品を中心に使う。

「ただでさえ患者さんは、治療などで出費がかさむので、化粧品は高価なものでなくても大丈夫と伝えています」

 やがて、メイクが完成すると、参加者は鏡に釘づけになるという。元気だったころの自分と再会できるからだ。

「メイク講座を機に、職場復帰した女性が何人もいるようです。キレイになると自信が取り戻せるからですね。とはいえ、治療中はふさぎ込む日があって当然。そんな日は、布団をかぶって寝ていていいんです。メイクで外見を取り戻す方法を知っているだけで、心の支えになりますから

 乳がんを経験してから、“キレイになった”と言われると、山崎さんはテレながら話す。メイクの力だけでなく、生き方を見直せたからだ。

「以前は仕事一色でしたが、病気で否応なく立ち止まったことで、今後の人生をどう生きるか考える時間が持てたからかな。美容の知識を生かし、患者さんのための活動を始めたのもそのひとつだし、離婚すら考えていた夫がいかに大切な存在かに気づけたことも大きい。

 こうした“気づき”は乳がん患者さんに共通していて、“昔の彼女より、今の彼女のほうが輝いている”と言われる女性が多い。がんになっても人生は続く。その人生をどう生きるか、ちゃんと答えを見いだせたからですね」

■抗がん剤治療中6つのメイクポイント

1. 保湿(乳液やクリームで『テカテカ』になるまで)
2. 肌のくすみを取る(CCクリームやコントロールカラーでOK)
3. 眉を描く(眉が脱毛中は眉頭を眉骨の位置にとる)
4. まつ毛部分に、アイラインか黒のアイシャドーを引く(目力が蘇る)
5. チークは笑ったときに盛り上がる『アンパンマン』の位置に
6. 唇はグロスを使い、みずみずしさをアピール

「CCクリームを塗ったら、仕上げはお粉だけでOK。治療中はシミや肝斑が濃くなる場合もあるので、気になる部位のみコンシーラーでカバーする。ファンデーションの厚塗りは、不健康な印象を与えるので避けましょう」(山崎さん)

《プロフィール》

◎山崎多賀子さん
美容ジャーナリスト。自身の乳がん治療中に、「キレイの力」を実感。以来、各地の病院や患者会などで講演やメイクアップセミナーを開催している。NPO法人キャンサーリボンズ理事。NPO法人キャンサーネットワーク認定乳がん体験者コーディネーター。著書に『「キレイに治す乳がん」宣言!』(光文社)など。