やまざき・まり マンガ家。1967年、東京都生まれ。'84年、絵画を学ぶためフィレンツェの美術学校に入学、美術史・油絵を専攻。'97年、マンガ家デビュー。2010年『テルマエ・ロマエ』がヒットする。マンガだけではなく文筆作品も数多く出版。現在『スティーブ・ジョブズ』『プリニウス』(とり・みきと共著)『Gli Artigiani ルネッサンス画家職人電』を連載中。

「マスラオ」という言葉をご存じでしょうか? 漢字では「益荒男/丈夫」と書き、「立派な男、勇気のある強い男」という意味があるそうです。『マスラオ礼賛』(幻冬舎)には、ヤマザキマリさんが独断と偏見で選んだ愛すべき男たちが登場します。

「雑誌に連載していたときは『古今東西男子百景』というタイトルだったんですけど、ちょっとわかりにくいかなということで、本にまとめるとき編集さんと話をして、出てきたので『マスラオ』だったんです。そんな言葉があるのか、私は半信半疑で(笑)。でも意味を知ると面白いし、ラテン語っぽくて、パンチのあるいい言葉だなと」

 本書には古代ローマ皇帝から実業家、小説家、マンガ家、芸術家、俳優、ミュージシャンといった歴史に名を残す人から、ヤマザキさんの担当編集者やおじい様、さらにはイタリアの食堂のご主人といった身近な人たち、はてはテレビの中の人やアニメキャラまで、ヤマザキさんの心をとらえて離さない男たちがズラリと並んでいるのですが……いったいどのへんが“マスラオ”なのでしょう?

私が住んでいるイタリアでは誰も空気なんて読まない

「私は見た目がいいとか経済力って二の次三の次で、知的触発のある人に惹かれるんですよ。変だけど面白い、長いものには巻かれなくて、どんなに孤立化しても、ダメなところがあっても直せない、直せないから自分と向き合って生きている人たちが好きなんです。

 でもね、実はそこが評価されるところだったりするんですよ。私が住んでいるイタリアでは誰も空気なんて読まないし、周りに合わせない、変人であることをみなさん謳歌しているんです。だから私も変人に慣れていて、“あの人、変だね”ではなく“そういう人なんだ”と多元的な人のあり方を受け入れています。

 でも日本って“世間”が戒律になっているんですよね。男の人も“こうじゃなきゃいけない”というのがある。曖昧で何の実態もない、アメーバのような世間がいろんなことを決めているんです。

 でも世間なんて、何かあったときに助けてくれないものだし、責任持ってくれないんですよ、個人の人生に対して(笑)。だから、あまり世間にとらわれないで、自分はこういうことがしたい、言いたいことがあるという人は、それを大事にしていくと、いいものになるかもしれないです。たとえそれがすぐに発揮できることではなかったり、表現できることじゃなくても、“そうなんだ”と自覚することが大事なんです」

 だからといって空気を読まないことがいいわけではない、とヤマザキさん。

「いつも空気を読むのではなくて、“ここは読まなくてもいいわ”という場を認知できる審美眼が備わったらいいのにな、って。そしたら人生はもっと面白くなるし、そういう人が増えると空気を読む必然性にこだわらなくなる。この本を書いたのは、日本でももっと“変さ”を出していいのに、ってことを示唆したかったというのもあるんです」