救世主・くまモンを採用

 蒲島が県民の圧倒的な人気を得たのは、就任して半年で結論を出すと公約した川辺川ダム建設の可否だ。40年以上前にダムを造ると計画したものの、地域の中にも賛否両論があり話が進まずにいた。

 蒲島は、就任してすぐ専門家による有識者会議を開く。事前に人選して彼らには了解をもらっていた。

 ダム建設のためにすでに移転した人たちもいる。ダムを造れば五木村の中心地が水没し、清流川辺川の自然環境にも大きな影響が出る。川辺川流域では賛成派と反対派が対立していた。半年後、有識者会議での議論を踏まえ、蒲島は建設計画の白紙撤回を決断した。定例県議会でそれを発表したとき、彼は五木村の人たちへのメッセージも述べた。

「五木村のみなさんは下流の村民の安全のために、住み慣れた家や代々受け継いだ農地、ご先祖の墓所を手放すという苦渋の選択をされました」

 そこで蒲島は胸にこみ上げるものがあり、絶句した。嘘偽りのない心情だった。それをテレビで見た県民は、「この人なら信じられる」と心から思ったそうだ。直後の世論調査で85パーセントの県民が蒲島の決断を支持すると答えた。

 知事になってから蒲島はさまざまな課題に取り組んできたが、「県民の総幸福量の最大化」に大きく貢献したもののひとつが「くまモン」の登用ではないだろうか。

2013年、蒲島氏が母校ハーバード大学で講演をした際、くまモンも同席。学生たちにウケた
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 2011(平成23)年の九州新幹線全線開通を前に熊本には危機感があった。このままだと熊本を素通りされてしまう。そこで「くまもとサプライズ!」というキャッチフレーズを熊本出身の放送作家・小山薫堂氏が考え出し、そのロゴをデザイナーの水野学氏が考え出した。そのロゴの「おまけ」に水野氏がつけたイラストが「くまモン」だったのだ。

「最初作ったくまモンは、今では初号機とかゼロ号機とか呼ばれていますが、かわいくなかった(笑)。これでは県のキャラクターとしてどうだろうと困っているとき、見るに見かねたのでしょう、今のかわいいくまモンがどこからかやって来たんです」(蒲島)

 蒲島は救世主のようにやって来たくまモンを連れ歩き、臨時職員として正式に雇い、さらに営業部長に抜擢。庁議にも参加させた。これも最初は賛否両論あったが、蒲島は馬耳東風。いいと思ったらどこまでも突き進むのだ。穏やかに、にこにこと。それが蒲島流である。

 最初は25億円あまりだったくまモンの関連商品売上高は、2016(平成28)年度には1280億円にまでなった。日本のみならず、アジアや欧米にもくまモンは進出、熊本産の物品売り上げや観光客の誘致に力を発揮している。くまモンは人々に笑顔と元気を届け、県民の誇りにもつながっている。どうせ熊本の場所など知らないだろうと「九州出身です」と言っていた熊本出身者が、胸を張って「熊本です」と言えるようになったともいう。