南米原産の強毒アリ「ヒアリ」が6月、日本に初上陸した。刺されるとその毒で激しく痛み、患部が腫れる。人によってはアナフィラキシーショックで死ぬこともある。

 発見当初は連日、ワイドショーなどで報じられ、日本列島が、“ヒアリパニック”の様相を呈した。日本の冬を越せないという専門家の指摘もあったが、11月になっても広島県呉市などの積荷コンテナ内でヒアリが確認されている。

 現状について、環境省の担当者は「侵入初期」と、とらえている。

「調査は主に2種類で、1つがアメリカ、中国などヒアリが確認されている港との航路がある全国68か所でのモニタリング調査、もう1つはヒアリが見つかった26か所と周辺を調査しました。アリ塚などは見つからず、定着はしていないと考えられます」

 と認識を示し、そのうえで、

「絶対に(定着を)防いでいきたいと思っています」

 と意気込む。

7月にヒアリが発見された横浜市の港
7月にヒアリが発見された横浜市の港

 しかし、寒くなるにつれ市民の関心も薄れぎみ。神奈川県横浜市のヒアリ発見場所近くの公園を利用する女性は、

「発見されたときは怖いと思ったけど、今はあんまりですね」と冷ややか。同市の本牧埠頭で働く男性は「調査して出てこなかったんだからもういないでしょ」と楽観視する。

「それこそヒアリの思うつぼ」と警鐘を鳴らすのは、その生態に詳しい沖縄科学技術大学院大学の吉村正志教授だ。

「発見された範囲のヒアリは駆逐し、周辺の調査はしたので現状は安全だとはいえますが危険という意味では変わっていません。肝心なのはこれから。引き続き監視が必要」

 と包囲網を緩めないことの大切さを訴える。

「いちばん恐れているのは発見前に逃げ出したものです。ヒアリの中でも羽アリは風に乗ってキロ単位で飛びます。

 女王と羽アリは落ちた先で次の世代のアリを生み出すことが考えられますが、アリ単体はなかなか見つけられません。ただし、巣ができてから発見されるのでは遅い」(吉村教授)

 しかし、「単体では在来のアリに攻撃され、生存するのも困難な可能性も」とも話す。

 水際での阻止に成功しているが、ヒアリが生存する暖かい国からのコンテナは日夜、日本中の港に届く。これから冬になるが、また春が来て夏になり……来年も脅威は続く。

「暖かくなり、気温が20度を超える日が出てくると、新たな発見事例が出てくる可能性はあります。慣れてはいけません。行政や研究者だけでなく、地域に住む人が発見し、対処することです」

 と前出・吉村教授は言葉に力を込めた。