<其之七>
西郷さんが指示!? 龍馬暗殺の黒幕説

 実は坂本龍馬は、徳川慶喜と会談した際にその器量に感激し、「命をこの人に捧げる」とまで書き残している。大政奉還というアイデアを発案した龍馬は、慶喜を中心とした新政府を考えていたと言われ、倒幕という志を抱いていた薩長から次第に煙たがられる存在になっていった、というのはあまり知られていない。

イラスト/柏屋コッコ
イラスト/柏屋コッコ
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 となると、幕府にとって龍馬はありがたい存在。そんな恩人を幕府サイドの見廻組、新選組が暗殺してもメリットはない。では一体、誰が? 浮かび上がるのは、新選組を離脱した伊東甲子太郎率いる「御陵衛士」。

 彼らは、新選組の中でも倒幕を掲げていた思想の異なる一派で、表向きは薩摩藩の動向探索を掲げつつ、実際には薩摩藩と通謀していたとされる派閥。新選組から分派した御陵衛士なら、新選組が暗殺したといった流言を放てそうだし、実行犯にはもってこい。合理的かつ切れ者の西郷さんが、裏で糸を引いていたとしても不思議じゃない……。

<其之八>
西郷さんの子孫は多岐にわたって大活躍!

 数多の歴史の偉人がいる中で、西郷さんほどその子孫が多岐にわたって活躍している人も珍しい。いちばん有名なのは、愛加那との長男・菊次郎。自身も西南戦争に参戦したにもかかわらず、終戦後は外務省に入り、米国公使館や本省に勤務。その後、台北県支庁長、宜蘭(ぎらん)庁長に就任し、京都市長を6年半務めるなど近代日本を支えるまでに。逆賊の将となった西郷さんだけど、菊次郎の活躍を見るに、明治政府も西郷さんの血筋には目を見張るものがあったんだろうね! 

 今現在も子孫は健在で、ご当地、鹿児島にある「西郷隆盛銅像展望ホールK10カフェ」では、曾孫(嫡男 侯爵 西郷寅太郎の孫)の西郷隆夫さんがオーナーを、薩摩藩士・岩山八郎太(イトの父)の玄孫(やしゃご)である若松宏さんが店長を務め、ゆかりのメニューや西郷さん話を満喫できるファンにはたまらない空間になっている。菊次郎の孫である西郷隆文さんは黄綬褒章を受章するほどの陶芸家として、西郷隆盛の弟・西郷從道の曾孫である山内大童さんは画家として活動するなど、西郷イズムは現在も生きている。

監修/本郷和人(東京大学史料編纂所教授)、堀江宏樹(歴史作家) 取材・文/我妻アヅ子 イラスト/柏屋コッコ