東京があまり好きじゃないという気持ちは変わらない

 今回演じた添田は、親友に何も言わず街を出ていき東京に染まっていくが、北海道出身の戸次自身は“逆に変わらない”と話す。

「東京があまり好きじゃないという気持ちは変わらないですね。理由ははっきりしていて、上京する人の多くは10代後半から20代前半で地元を離れるから、東京の環境がスタンダードになる。でも僕は30代になって、ひょんなことから東京で仕事をさせてもらえることになっただけなので、札幌での生活が基準なんです。だから東京は違和感のほうが多いですね」

戸次重幸 撮影/伊藤和幸
戸次重幸 撮影/伊藤和幸
すべての写真を見る

 しかし、東京に来たことを後悔しているわけでは決してない。

「札幌の空気は澄んでいるし、息を吸っているだけで気持ちがいいんです。でもそれも東京に来たから再確認できたこと。それに東京には役者の仕事がたくさんありますしね。札幌だけで活動していたら、ここまでいろんなお仕事には挑戦できないですよ」

 演劇ユニット『TEAM NACS』の仲間である大泉洋のブレイクがキッカケで、戸次のもとにもさまざまな仕事が舞い込み始めた30代。しかし、そんな環境に甘んじた結果、仕事が途絶えてしまった時期も。

「事務所スタッフの努力もあって、実力以上に仕事をいただけたことで、どこかテングになっていた部分があったと思います。セリフを頭に入れて、段取りを間違えなきゃいい……ぐらいの気持ちで役に向き合っていた結果、東京には仕事があるのに僕には仕事がないという状態になってしまったんです」

 間違いに気づけたのは、メンバーの存在も大きかったようだ。

「大泉なんてあんなに売れているのに、なんて腰が低いんだろうって僕が見ても思うぐらい(笑)。それは30歳まで札幌にいて、敵を作ったら生きていけないことを知っているから。だからTEAM NACSのメンバーは全員チキン。生きるのに必死だし、周りに好かれたくて必死です(笑)。役者として生き残るには、それに加えて監督が思っている以上のいい芝居をしないとダメなんだなって気づいたんです」

 オファーがあることのありがたさを身をもって知っただけに、どんな役柄でも全身でぶつかる。「今回の作品を見て、クズだなと思ってもらえたらうれしい」とニコッとほほ笑む。

「僕も役柄のような人物だと思われたなら、今回の演技が及第点は取れているのかなって思うので、それほどうれしいことはないですよ。役者にとって最低の評価は、“この役はこの役者じゃなくてもよかったよね”と思われることですから」

 役者という仕事は「常に背水の陣」だとも語る。

「50本いい演技をしたとしても、51本目でダメだと思われたら、もういらないと思われる商売。なんでこんな大変な仕事を選んだんだろうと自分でも思います(笑)。でも、だからこそやめられないんでしょうね」

<映画情報>

TANIZAKI TRIBUTE『神と人との間』

出演/渋川清彦、戸次重幸、内田慈 ほか。1月27日よりテアトル新宿ほか全国順次公開。

(c)2018 TANIZAKI TRIBUTE製作委員会
(c)2018 TANIZAKI TRIBUTE製作委員会