選択肢が少なければ、迷うことも少ない

 年を取れば取るほど、病気のリスクは増え、仮に老人ホームに入所することになれば、まとまったお金が必要だ。お金のある人は有料老人ホーム入居もありえるが、お金のない人に、その選択肢はない。しかし、だからといってお金のない人が不幸かというと、それは違う。ホームに入る選択肢がない幸せもあるのだ。

 つまり、選択肢が少なければ、迷うことも少ない。ホーム入居の選択肢がなければ、最後まで自宅で頑張る気力もわいてくる。そういう考え方に変わると、肝がすわり、怖いものがなくなってくるから不思議だ。

 単純に比較できないが、株を持つ人は、いつも金利のことを考えて落ち着かず、損得で一喜一憂して暮らさなければならないが、株を持っていない人は、その不安がないぶん、さわやかだ。最近、わたしは年齢のせいか、持っていない幸せを痛感することが多くなっている。

 SSSネットワークの会員に、借家住まいの80代の女性がいる。借家住まいは追い出される不安があるため多くのシングル女性は家を買うのに、彼女は死ぬまで、今の借家に住み続けると笑いながら話す。なぜなら、大家さんから「一生住んでもらっていい。死んだら火葬もやってあげるから安心してね」と言われているそうだ。これは、彼女が、長年かけて作ってきたいい人間関係の結果ではないだろうか。幸せは、お金ではないといういい例ですよね。

 会員の中には、こんな60代のシングル女性もいる。昨年、両親を見送り戸建てにひとり暮らし。寂しくないか聞くと、あっけらかんとした顔でこう答えた。

「ぜんぜん。ひとりは最高! ひとりは自由! 家族のしがらみもなくなり幸せよ。変な話、ひとりだと死ぬのも自由よ。全部、自分で決められるっていい。ひとりの老後を心配して不安で過ごしている人に言いたいわ。なんて、もったいない暮らし方をしているのって」

 わたしも心からそう言える人になりたい。

<プロフィール>
松原惇子(まつばら・じゅんこ)
1947年、埼玉県生まれ。昭和女子大学卒業後、ニューヨーク市立クイーンズカレッジ大学院にてカウンセリングで修士課程修了。39歳のとき『女が家を買うとき』(文藝春秋)で作家デビュー。3作目の『クロワッサン症候群』はベストセラーとなり流行語に。一貫して「女性ひとりの生き方」をテーマに執筆、講演活動を行っている。NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク代表理事。著書に『「ひとりの老後」はこわくない』(PHP文庫)、『老後ひとりぼっち』(SB新書)など多数。