事件現場の店舗兼住宅は立ち入り禁止の規制線が張られていた。
事件現場の店舗兼住宅は立ち入り禁止の規制線が張られていた。
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「こちらが真相を知りたい」

 キリさんを知る女性は、

「愛想がよくて、明るい人。バチッとお化粧をして、華奢できれいな方でした。地元出身の演歌・歌謡歌手の青山ひろしの後援会に入っていて、すごく熱中していましたね。生け花とお茶が好きで、よくお茶会とかするんですよ。(事件現場の)2階には茶室もあるしね。お店の床の間には、キリさんの生けた花が飾ってありました」

 容疑者は店舗兼実家から約1キロ離れた場所に一軒家を建て、10年ほど前からひとり暮らしをしていた。

 定休日の水曜日以外は毎朝8時ごろに車で出勤し、そば・うどんなどの仕込みを自分ひとりで黙々とこなす。

 家族ぐるみの付き合いをしていた前出の住民が、一軒家を建てた経緯を明かした。

「同居だと、お嫁さんをもらう話があってもなかなかうまく進まない。そういうことで、お店とは違うところに家を建てたんですよ。私も何人か紹介したけれどもね。

 後から聞いた話だと“もし結婚したら、私もお店の仕事に駆り出されるんでしょ、それは嫌だ”って女性が言うんですって。ちょっと彼女ができても、女の人のほうから後ずさりしてしまうということは聞いたことがありますね」

 容疑者から体調の不安を聞いていた住民がいた。

「必ず“おはようございます”って律義にあいさつしてくれるんですよ。最近、腰が痛い、腰をやられたって、コルセットを巻いて無理していた感じでしたね」

 それでも不調を隠し、父親を亡くしてからは、ひとりでうどんやそばをこね、人気店として客の期待に応えてきた日々。前出の30年来の近所付き合いという男性は、

「人のために尽くすような人でしたね。雪が降って店の前で立ち往生している車があると、仕事を途中でやめてでも車を押していました。店の前だけじゃなく、近くの駐車場の雪かきもしていました。

 そばを、麺つゆと一緒に持ってきてくれたこともありました。つゆはペットボトルに入れて“煮物にも使えるから”って」

 と容疑者の人柄を伝える。

 近所付き合いもきちんとし、トラブルの種はなく、お惣菜が余れば知人に届け家族全員、仲がいいという近所でも評判の一家で起きてしまった長男による母親刺殺事件。容疑者本人の命に別状はないが、ケガをしていたという。

 昨年末から体調が思わしくなく、事件直前は自慢のうどんやそばの太さが不ぞろいになるなど、「学さんが体調を崩して休んでいると聞きました」と前出・主婦。無理心中を図ろうとしたという報道もあったが、「こちらが真相を知りたい」と周辺住民。

 繁盛店の店内に食欲をそそる麺つゆの香りが漂うことは、もうない。