自由ということは、平和の証なんです

 今年で劇団を立ち上げて40年。その間に世の中はどんどん姿を変え、さまざまなことに対する選択肢が増え、社会は豊かになったが、

「昔のほうが規制も少なくて自由だったけど、とにかくお金がなくて。私なんて、同じTシャツを毎日着ていましたよ(笑)。でも今は、服もとても安くてたくさん種類があるのに、みんな同じような色や形のファッションをしているような気がして。もっとみんな、個性を出していいと私は思うんです

 最近は昔では考えられなかったファッションも見られるが、

「今の女の子の服って、肌をすごい露出させたものが多いなと思って。昔は襲われたりしたら怖いから、襟までキュッとしまった服が当たり前でしたから。でも、それを注意するのも“セクハラになるのかな?”とか“私の考えが古いからなのかな?”とかいろいろ考えてしまって。選択の自由があるからこその難しさも感じますね

納得のいく舞台を作り上げるため、妥協は許さない。撮影/高梨俊浩
納得のいく舞台を作り上げるため、妥協は許さない。撮影/高梨俊浩
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 しかし“自由”があるのは「平和の証(あかし)」だと考える。

“男は男らしく、女は女らしく”という括(くく)りは、扱いやすいように誰かが勝手に作った言葉。本当は、自分が誰なのか、自分の性別も含めて、すべて自分でチョイスして生きていいはずなんです。その自由があるうちは、平和の証拠。逆に、自由がなくなって、規制ばかりになったときに、私たちは危機感を持たなければいけないんです

 作中で人間は、“長い間死んで、ちょっと生きて、また死の国に戻る”という死生観が表現されているが、渡辺自身の考え方も、

自分の人生なんて、地球の長い歴史に比べたら氷の粒のような存在。死んでいる時間、私たちがいない時間は、何億年もあるんです。だから私たちは生きている時間より、はるかに長い時間を死んでいるんだと思っています

 それでもやはり「死ぬのは怖い」と語る。

できたらずっと生きていたいと思います。未来がどうなっていくのかを、自分の目で見てみたい。本当に戦争がなくなるのか、世の中がどう変化していくのかを、最後まで確かめたいんです」


■舞台『肉の海』
6月7日(木)~17日(日) 下北沢・本多劇場にて公演

わたなべ・えり◎1955年1月5日生まれ。『劇団3〇〇』を20年間、主宰。’83年、舞台『ゲゲゲのげ』で岸田國士戯曲賞を受賞し、注目を集める。現在まで舞台を中心に、ドラマや映画など幅広く活躍。2018年6月7日~17日、本多劇場にて最新作『肉の海』が公演中。