男はいつでも自由になりたい

 人生の半ばを過ぎて新たな道を歩み始めた鉄平の姿に、男のロマンや夢が託されているのだろうか。

家族というのは妻が社長で、夫は経理担当常務程度なんです。自分が社長じゃないから、どうしても仮住まいっていう気持ちのまま。定年になると居場所もなくなる。そこに、子どもは独立、お金もある……という条件がそろえば、“どこか遠くへ行きたい”って思うのが、男という生き物なんです。ひとりだと洗濯すらできなくてもね(笑)

 鉄平に待ち受けていた運命とは? あっと驚く大どんでん返しの結末に、読者は呆然(ぼうぜん)と佇むほかない。 

 登場する銘酒でも傾けながら、いつまでも読後の余韻に浸れそうだ。

ライターは見た!著者の素顔 

 長編を書き上げるために、朝から晩まで書斎に閉じこもって執筆活動をしていたのかと尋ねると、「集中は、ウルトラマン5人分の15分しかもちません。15分書いたらカラータイマーが点滅してくるので、30分休みます。それを延々繰り返す感じ」とのこと。休憩中は、ひたすらネットニュースのチェック。「執筆中の15分の間に、世の中で大事件が起きていたらどうしよう、って不安になる。常に時代を生で感じたい。ニュースを見なければ、もっといい小説が書けるかもしれません(笑)

『一億円のさようなら』白石一文=著(徳間書店/税込2052円)※記事の中で画像をクリックするとamazonのページに移動します

PROFILE
しらいし・かずふみ◎1958年生まれ、福岡県出身。作家。2000年に『一瞬の光』でデビュー。’09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、’10年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞し、初の親子二代の受賞が話題となった。『私という運命について』『翼』『記憶の渚にて』ほか、著書多数。

(取材・文/工藤玲子)