悪意を悪意と思わない多幸感キャラ

 安藤は天然キャラで、女の悪意に気づかないタイプのようだ。気づかないまま進むようだから、この際、教えてあげようと思う。

 まず、女学校時代の親友たち(松井玲奈・呉城久美)。あれ、親友じゃないと思うんだよね。金持ちのお嬢様が集まる学校で、貧乏な家の安藤はどうやら珍獣扱いだったようだ。

 常におかずなしの「ちりめんじゃこ弁当」を喜々として食べる安藤を「貧富の差を気にしない変わり者」とみなしたお嬢様たち。「そやから大好きなんよ」とな。ハイ、その友情にオンナアラート!

 自分より下に見ることで安心する女たち、あるいは枠から外れた規格外の女と仲良しでいることで「自分の寛容さ」がほしい女たち。

 知ってるよ、その心根を。悪意ではないかもしれないが、お嬢様たちの根底に流れる「私とあなたは違う世界」感は強い。

 そして、もうひとつ。

 英語が話せることを認められ、電話交換手からフロント係になった安藤。器量よしの先輩・橋本マナミがひっぱってくれたおかげもある。

 あるのだが、気になる会話があった。器量がよくないのにフロント係に抜てきされ、戸惑っている安藤に対して、橋本が放った言葉である。

「あなたの笑顔はとっても素敵よ」

 ハイ、オンナアラート!!! 

 あのな、全世界のブスどもは知っているんだよ、卑下したブスをなぐさめる魔法の言葉を。「笑顔が素敵」「髪がきれい」「脚が長い」。

 顔以外のほめどころを瞬間的に全速力で探し、なんとか見つけ出して吐き出した言葉の真意を。「顔は残念だけど」の枕詞を。

 そんな、一見善意に見える無意識の悪意を、朝から血眼ですくいとる自分が嫌になるけれど、オンナアラート案件ですよ、これは。

 ところが、安藤は悪意を悪意と気づかないどころか、自ら多幸感スイッチをオン。「ちりめんじゃこ弁当のおかげで骨が強くなる!」「フロント係に昇格したから、姉の結婚をぐずる母を説得できる!」とすべて前向きにとらえる。

 プラス思考は最強だし、幸せを感じる才能が豊かなヒロインは、すがすがしいね。

 始まってまだ数回なのに、こんだけオンナアラート発令するなんて。つまり、実に興味深いってことだ。

 安藤サクラが本人の地のまま、というか、アホっぽいキャラをどこまで貫くのか、これから迎えるであろう艱難辛苦(かんなんしんく)をどう乗り越えるか。

 子役時代を一切作らず、長谷川博己との出会いからスタートする英断も、正しかったと思う。アホ全開のオープニング映像の中で一瞬真顔になる安藤に、喜怒哀楽の山場と見せ場をきっちり作ってくれるであろう予感もある。楽しみだよ。


吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/