意志が強い人、まじめな人が危ない

 千回以上、万引きをしていた妻に夫がまったく気づかなかったケースも。

「嘘(うそ)と依存症ってセットなんです。この本では『嘘つきは、泥棒の始まり』ではなく『泥棒は、嘘つきの始まり』としています。万引きをするから、それを隠そうと嘘をつくようになる。依存症は学習された行動であり、ライフスタイルの病気で、環境への適応行動です。気持ちいいからやるのではなく、ストレス心理的苦痛や不安を一時的に解消するため、生きのびるために選択している。なので完全に予防するのは難しいのですが、ストレス解消する術が多くあること、依存先を持っていること、そして家族とコミュニケーションを図り、相談する人がいるというような『健康な人間関係』や『つながり』を持っておくことが大事です

 斉藤さんは「家族には普通の生活をしている中で万引きをするように見えるため、本人のパーソナリティーの問題や意志の弱さ、反省していないのかと思ってしまうのですが、実は意志が強く他人の評価に敏感で、スキルが上がることに快感を覚えるまじめな方が万引きに耽溺していくのです」と、万引き依存症への正しい理解を促します。

「こうしたクレプトマニアという病気がある、万引きに依存をしてしまう人がいるんだという視点、知識を得ることで、悩んでいる家族も楽になりますし、何より本人も方向性が見えるようになるんです」

ライターは見た!著者の素顔

 電話が鳴ると店や警察からではないか、連絡がとれないのは逮捕されたからではないか……万引き発覚後は、家族の日常生活が一変します。しかし治療導入後にヒアリングをすると、「家族とのコミュニケーションの時間が圧倒的に増えた」という答えが返ってくるのだそうです。「万引きをしていると後ろめたいので、家族を避けるんです。でも事件があって、不幸だったけれど、万引きがきっかけになって、何もない日常がこんなに幸せなのか、と価値観が変わったという人が多いですね」

『万引き依存症』
斉藤章佳=著
イースト・プレス 1620円
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PROFILE
さいとう・あきよし 1979年生まれ。大森榎本クリニック精神保健福祉部長。精神保健福祉士・社会福祉士としてアルコール、ギャンブル、薬物、摂食障害、性犯罪、虐待、DVなどさまざまなアディクション問題に携わっている。専門は加害者臨床で、2017年『男が痴漢になる理由』を上梓し、話題となる

(文/成田全)