「今、人を貸し出してくれる代行サービスみたいなのがあるから、そういうところにお父様になる男性をお願したらどうかしら。世間体もあるし」

 その帰り道、由美さんはこれまで溜まっていた不愉快な思いを、誠一さんに一気に吐き出しました。

「世間体が悪いって言うけど、世間って何ですか? ひとり親がみっともないですか? 私は、母が女手一つで私と弟を育てて大学まで出してくれたことを誇りに思ってるわ。代行サービスにお金を払って、父親でない人を父親にして結婚式に参列してもらうなんてバカげてる。そんなことはしたくない!」

 由美さんの怒りに満ちた言葉に誠一さんは、口ごもりながらもこう答えました。

「まあ、そうなんだけど、ここで親と揉め事を起こさない方がいいよ。お金で人が雇えるなら、それはそれでさ。それに、僕の会社の手前もあるから、お互いに父親と母親が揃っていた方が、見栄えもいいんじゃない?」

 その言葉を聞いて、「もうこの人との結婚はやめよう」と思ったと言います。

 しかし、気持ちを伝える前に誠一さんの方から、「結婚は取りやめたい」という連絡がきたのだそうです。

  この親にしてこの子あり。きっと幼い時から“それは世間が許さない”“世間様に笑われる”“世間体が悪い”そんな親の言葉を刷り込まれて、大きくなってきたのでしょう。

「それは世間が、ゆるさない」「世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?」

 これは、太宰治の『人間失格』にある有名な言葉です。

 本当は自分が気に食わない。それを“世間”と言う言葉に置き換えて、多数の人たちの声にしてしまう。自分の発言や考え方に自信が持てない人たちが、“世間”という言葉を使うのではないでしょうか?

 親御さんの世代には、“世間”を気にする生き方をしてきた人たちが多い。日本がそうした時代背景だったというのもあります。

 そんな親御さんに育てられた息子、娘が、親とどう向き合うか、どうパートナーを守り尊重していけるか。そこが大事ではないでしょうか。


鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。公式サイト『あいかつハウス』http://aikatsuhouse.grupo.jp/