現場に行った。

 亡くなった男性は南側から踏切に入っているので同じように渡ってみる。入り口にはバイクや自転車の進入を防ぐ複数の鉄柵が設置され、ど真ん中に「とまれ!」の標識が立っていた。

 注意書きには「この踏切は警報機がありません」とあり、約280メートル先の歩道橋を利用するよう記されていた。しかし、暗い時間帯に初めて通る人の目にとまるかわからない。

踏切入り口には警報機がないことを知らせる掲示があり、約280メートル離れた歩道橋利用を促している
踏切入り口には警報機がないことを知らせる掲示があり、約280メートル離れた歩道橋利用を促している
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 踏切内に入ると、左右の見通しはいい。大きなカーブもなく目測で300メートル以上は見通せる。ただ、歩行者感覚では計7本の線路(合流する複線を個別にカウントすると9本)をまたぐため、妙な不安を覚える。

 もし、電車が来たら急いで突っ切ればいいのか、その場で待機するのか、引き返すのか─。都市部に多い遮断機と警報機つきの踏切に慣れているせいか、遮断機内に閉じ込められるような怖さを感じた。線路につまずかないよう1本ずつ慎重に越え、渡りきるのに約30秒かかった。

 実際は7本中、在来線が通るのは横須賀線上り・下りの2本だけ。近隣住民によると、駅が近いため加速中か減速中でさほどスピードは出ていないという。ほかは引き込み線や車両連結などに使う線路だから低速運転らしい。そんな情報はどこにも掲示されていないから、踏切内で前後をビュンビュン通る列車に挟まれたらどうしよう、と内心ハラハラしっぱなしだった。

 近所の30代女性は、

「線路北側の住民が、南側にある京急新逗子駅を利用するときはまずここを渡っていますね。迂回路の歩道橋は上り下りがたいへんですし、歩道橋下の遮断機と警報機のついた踏切は、通勤ラッシュ時には“開かずの踏切”になるので近道するんです」

 と話す。

 ただし、雨や雪の日、夜間に渡るのは避けるという。

「私は毎日、最低1往復はしますけど、視野が狭くなったり、滑ると危険ですからね。でも、自転車を無理やり入れて渡る子ども、かついで渡る男性、カートを引いて渡る女性、赤ちゃんを抱えたまま渡るお母さん、杖をついて渡るお年寄りも見かけます。線路には溝もあるので、それに足や車輪、杖などがはまる心配もありますから、危ないですよ」(同女性)