私も仕事をやめて介護に専念しようかと、ちらっと思ったこともありました。先日聞いた話では、お舅さんを介護中の女性が、週1回のお花のお稽古が唯一の楽しみなのだけど、「介護中にそんな余裕があるのか」と言われそうで、やめようかと悩んでいるとのことでした。でも、そこで、自分の時間を作ることをやめてしまったら、介護を続けるエネルギーも失いかねないと思うのです。

“起きる理由”のあることが、年をとったら大切になる

――阿川さんご自身が介護される立場になったら? と考えることはありますか。

 どうなりますかね。高齢者医療が専門の大塚宣夫先生と共著で『看る力』(文春新書)という本を出したのですが、大塚先生は、自分が75歳になって初めて高齢者の気持ちがわかったとおっしゃっていました。健康のことを考えると、規則正しく食べて寝起きして、入浴して清潔にしてというけど、年をとると、それがすごくめんどくさいことが、わかったんですって。

 うちの母もね、私が朝、起こそうとすると、「なぜ起きなきゃいけないの?」って言うんです。そう、起きる理由が見つからないんですよ。年をとっても、なるべくぎりぎりまで起きる理由があることは大切だと思う。なので、うちの場合は、母が好きな庭いじりができる環境を、可能な限り残そうと考えました。

 以前、中尾ミエさんにお話を聞いてなるほどと思ったのは、今の80代って時代の先端を走った世代だと。ロックを取り入れ、ジーパンをはき始め、広告をカルチャーにした人たち。なのに、施設で童謡とか民謡を歌わせられるのはおかしいって。

 要は「いかに楽しく過ごすか」でしょうか。大塚先生によると、「いつ死んでもいい」という高齢者に、「では明日でもいいんですか?」と聞くと、「いや、やっぱり、あと3年は生きたい」と答える人が多いんですって(笑)。「孫が幼稚園に入るまでは」とかね。そんなふうに、ささやかでも日々楽しみに思えることが見つけられれば、幸せなことだと思うんです。


《profile》あがわ・さわこ/作家・エッセイスト。1953年、作家・阿川弘之氏の長女として誕生。週刊誌やテレビ番組のインタビュアーとしても活躍し、『聞く力』がベストセラーに。近著に、高齢者医療の専門家である大塚宣夫医師との共著『看る力 アガワ流介護入門』、認知症の母と娘を描いた小説『ことことこーこ』など。

出典/『充実時間』(http://www.jyujitsu.jp/)★「老後不安」を減らして、楽しく暮らすヒントがいっぱい。※阿川さんのインタビューはこちらでも読めます。