「キルトとは、アメリカの開拓時代に母親たちがありあわせの端切れを縫い合わせて、愛するわが子や家族のために衣類や敷物を作ったのがそもそもの始まり。百恵さんの作品にも家族への思いがいっぱい詰まっていますよね」(教室の生徒のひとり)

 '16年の作品『静寂と薔薇』では、夫・友和への愛を表現していた。

「薔薇の花言葉は“あなたを愛しています”。大胆なプリント布地に1本の薔薇を縫い込めた情熱的な作品でした」(教室の別の生徒のひとり)

 この作品の展示期間の翌日が友和の誕生日だったという。

’80年11月、挙式後に記者会見を開いた三浦友和・百恵さん夫妻
’80年11月、挙式後に記者会見を開いた三浦友和・百恵さん夫妻
【写真】百恵さん、三浦友和、39年前の挙式会見など

「友和さんへのメッセージを込めた、百恵さんの愛にあふれたバースデープレゼント作品だったんでしょうね」(同・教室の別の生徒のひとり)

 同書にある『巣立ちのキルト』の章には長男、次男、甥っ子に向けて作った3つの連作『未来へ…』が掲載されている。そこには百恵さんのこんな言葉が添えられている。

《子育ての大きな節目の一つは子どもが成人を迎えるとき。やがて独立して家を離れていくとき。そんな巣立ちをしていく我が子にキルトを贈ることで向き合いました。長男、次男、甥それぞれの“未来を祈る心”は針仕事を通して形になりました。純粋な心洗われるような制作のときがあったことを尊く思います》

(左)長男・三浦祐太朗(右)次男・三浦貴大
(左)長男・三浦祐太朗(右)次男・三浦貴大

 連作の1作目となる長男に贈った作品には、特に思い入れが強かった。

「制作にミシンを使う人もいますが、百恵さんは縦219×横200㎝という大作をひと針ひと針、自分の手で縫い上げたんです。制作期間は18か月にも及んだそうです」(前出・教室の生徒のひとり)

 太陽を思わせる明るい作品で、百恵さんの未来への思いのすべてが鮮やかに表現されているという。今回の出版は、出版元と以前から付き合いのあった鷲沢さんが紡いだ縁でもあった。

「この本を今のタイミングで出版するのは、百恵さんのキルト作家としての機が熟したからですが、私どもの悲願でもありました。本作には未発表の新作も多数掲載され、その中には家族、友人のための作品も含まれています」(出版元の担当者)

“キルトの向こう側”に込められた百恵さんの思い。そして40年ぶりに語られるメッセージにも注目が集まる。