何よりもワクチンの接種を

 では、季節性のインフルエンザとは異なる、重篤化する鳥インフルエンザなどの突然変異型への対策はどんなことが考えられるだろう?

インフルエンザはさまざまな動物に感染しますが、人間に感染するのは百何十種類あるインフルエンザウイルスのうち数種類だけです。しかし、ウイルスは常に変化していて、まれに人に感染しやすくなる─例えば、タンパク質を表面にまとうような新型ウイルスとして生まれ変わるケースです。2009年に大流行した鳥インフルエンザは最たる例」

 岩田さんによると、今後、人に感染する新型インフルエンザは、家畜衛生の整わない国などで登場することが予想されるという。となると、気になるのは万が一、日本に持ち込まれてしまう可能性だ。

「完全に専門家レベルの対応になるため、冷静に専門家の情報に耳を傾けること。そして、安易な情報に踊らされないことです。前述の夏のインフルエンザもそうですが、情報に踊らされてしまう方が多い」

 そして、「ごくまれに発生する未来の新型インフルエンザの心配をするよりも、必ず冬に流行するインフルエンザ対策をしっかり講じるほうが、よほど生産的です」と助言を送る。

「手洗いやうがいなども大事ですが、インフルエンザ対策はワクチンに勝るものがありません。ワクチンを打つことで4か月ほど効き目がありますから、冬の前に打つことで流行期を乗り越えられます」

 ただし、ワクチンを打ったからといって万全というわけではない。インフルエンザウイルスは毎年変化するために、ワクチンを接種した人のおおよそ50%しか効果はないのだとか。だが、この50%が大きな違いを生む。

「ワクチンを接種することで1000万人だったかもしれない罹患数が500万人になる。500万人の患者さんが減れば、医療費負担や社会的な影響も緩和されます。流行するインフルエンザの恐ろしいところは、社会・経済的なダメージが計り知れないということです。その可能性をワクチンによって半減できるのですから必ず毎年、接種するようにしてください」


《PROFILE》
岩田健太郎さん ◎神戸大学大学院医学研究科教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。日本の感染症診療の第一人者およびオピニオンリーダーとして国外でも活躍