実際、近年、報告されている風疹感染者の6割以上は30~40代の男性で占められている。

「結局、近年の風疹流行の感染者はほとんどが大人。つまり、先天性風疹症候群を防ぐのは大人の責任なのです」(可児さん)

まずはとにかく抗体検査へ

 2020年には東京オリンピックが開催され、大量の人の流入が確実視されている。これは風疹を持ち込まれる可能性があると同時に、今の日本国内の風疹流行を抑えられなければ、訪日外国人を通じて日本から風疹を拡散させるという2つの危険性を含んでいる。こうした状況にようやく国も動きだした。

 厚生労働省は風疹ワクチンの接種機会がなく、感染の危険性が高い1962年4月2日~1979年4月1日生まれの男性を対象に、風疹ウイルスに対する抗体の有無の検査費用と抗体が十分でなかった場合のワクチン接種費用を今年度から3年間、無料で提供する緊急対策を開始した。対象となる男性には今後、各自治体から順次無料の抗体検査クーポンが送付されることになっている。

「たぶん、かかったはずというのは自分の経験からも必ずしも正確ではありませんし、自分は絶対かからないと思い込んでいる人ほどかかってしまうものです。とにかくクーポンが送られてきた方は、まずは抗体検査に行ってほしい」

先天性風疹症候群(CRS)で亡くなった可児妙子さんが亡くなる3時間前に書いた絶筆
【写真】妙子さんが亡くなる直前、最後の力を込めて書いた絶筆

 そう訴える可児さんは、今も大切に保管しているものがある。病院のベッドの枕元に置いていたメモ帳に亡くなる約3時間前に妙子さんが書いた絶筆。妙子さんの葬儀が終わった後に夫が初めて見せてくれた。そこには大きな、しかも乱れた文字でこう書いてある。

《お父さんお母さんと私はがんばりました》

「難聴の子どもはどうしても“ですます”や“てにをは”が乱れがちなので、妙子が文章を書くときはいつもそばについて、その点はかなり気をつけて繰り返し教えてきました。だから、なぜ“ました”と過去形なのかと思ったのです。今でもなぜこう書いたのかはわかりません。

 もしかして妙子は私たちと別れるときがわかっていたのかな、と思うと切なくなります。私たち先天性風疹症候群の子どもを持った親は、今でも風疹が流行するたびに苦しめられるのです。私たちと同じような思いをほかの親御さんに味わってほしくありませんし、孫の世代にまで先天性風疹症候群を残したくないのです

(取材・文/村上和巳)


村上和巳 ◎医療専門誌の記者を経てフリーに。国際紛争や安全保障、医学分野を専門とする