回復し、泣きながら本を捨てた

 小・中学校時代、いじめにあっていた橋本さんは小児うつになったが、大学に進んで習得した心理メソッドで回復を果たしている。だが、震災直後の橋本さんにそのメソッドは効かなかった。

 たまらず、病院やカウンセラー、東洋医療などさまざまな専門家のドアを叩くも、状態は悪化するばかり……。

「“この道のプロなのに情けない”と自分を責めていた際に出会ったのが、食事と栄養素でうつを回復させるという栄養療法でした。実践してみると、確かに回復したんです。心の問題はカウンセリングや自己啓発のアプローチで100%よくなると学んできたのに、それだけではないと初めて知りました」

 うつを撃退する神経伝達物質(セロトニンやノルアドレナリンなど)は食物に含まれる栄養成分から作られている。つまり、「栄養面のアプローチ」を行うことで脳機能は改善し、心の不調はやわらいでいくのだ。

「“心の風邪”の言い方を変えると“脳の風邪”になる。つまり、食事と栄養が原因で脳の不調になる人が実は、すごく多かったということなんです。私自身、これは盲点でした。だから、泣きながら、大量に所有していた心理学やスピリチュアルの本を捨てましたね。“今まで何だったんだ、バカヤロー!”って(笑)」

 何度も言うが、うつの回復には多角的なアプローチが大切だ。橋本さんは心:身体=50:50の割合だと説く。

「栄養面のアプローチだけではうまくいかないと、ある程度、回復してから気づいたんです。そこそこ幸せだけど、そこから先へどうしても行けない。そこでもう1度、心理と、自分が長らく続けていた音楽療法のアプローチを行いました。そのときはもう身体のほうはできているので、この2つのアプローチもようやく結果が出始めました」

 こうして、「心理面のアプローチ」「栄養面のアプローチ」「音楽療法のアプローチ」の3本柱を確立する。中でも読者に特になじみがないのは音楽療法だろう。

「現在、音楽療法を取り入れるお医者さんは増えてきています。また、介護施設や特別支援の必要な子どもたち、高齢者のリハビリなどで音楽は有効活用されています」

 多角的アプローチを避ける専門家は多い。精神科のドクターは心理的アプローチにこだわるし、代替療法の専門家が西洋医療を否定することもしばしばだ。

「うつを克服した経験者の私から言わせると、どちらもバランスが悪いのです。多角的に取り入れていけば、うつは必ずよくなります」

 次のページからは、橋本さんが提唱する3つのアプローチについて詳しく解説!