(1)他者優先を捨てて自分優先に切り替える
「心理面のアプローチ」

 大切なのは相手や社会ではなく自分自身を優先させること。この考え方は心理的アプローチで一貫している。

1.「怒り」の感情を「許し」と「感謝」でフタしない!

 感情をのみ込んでニコニコしているのがよいとされる風潮が日本にはある。怒りや悲しみを抱いても、いい人ほど感情にフタをしてしまいがちだ。この感情のフタは「許し」と「感謝」でできていることが多い。何でもかんでもポジディブな側面を見つけては「ありがとう」「ごめんなさい」でネガティブな感情を打ち消したり……。

 我慢したその感情は行き場を失い、消失する。感情はエネルギーそのもので、このエネルギーが消えると喜びややる気のエネルギーも消えうせる。そして無気力になり、うつの原因になってしまうのだ。だから、ポジティブ、喜びだけを肯定しないで、全部感じることが大事。

 うつが回復してくると感情のフタが少し開き、怒りっぽい状態になる。感情の井戸には上から怒・哀・喜・楽の順番で感情が閉じ込められており、いちばん上の感情(怒)が出てこないと下2つのポジティブな感情(喜・楽)が出てこられない。生きる力を取り戻すには、怒りを出してあげることが先決。怒ることが苦手な人は、主語を「私」にして「私は怒っている」と言葉にしてみよう。怒りが出せるようになってくる。

「実際、私は怒るようになってから、うつが治りました」(橋本さん)

2.今まで叶えてきたものを再認識して幸福度を上げよう

 人間は幸福が逓減していき、次第に感じなくなる生き物。だから「あれが欲しい」「これがうまくいかない」と、叶っていない願望のことばかり考えるようになる。でも、今まで叶えてきた願望もたくさんあるはず。「家庭を持った」「海外旅行に行った」「行列のできる店のスイーツを食べた」「着たい服を着ている」など。まずは、叶ってきたそれらをひとつひとつ数えてみよう。

 あと、叶えてきたものを分野別でノートに書き込むのも効果的。例えば、人生面(お金、恋愛、仕事など)では「やりたい仕事をやっている」「大病したけど今は元気」ということがあるだろうし、物質面では服、アクセサリー、バッグなど実際に手に入れているものを書き出してみる。そうすると、すでに手にした豊かさを再認識して幸福度が上がるのだ。夏の疲れだって吹き飛ぶはず! 怒りを落ち着かせるのに効果的なワークでもある。

 “引き寄せの法則”という言葉があるが、叶えてきた願望に関心を向けると、さらに叶えたいものを引き寄せることにつながる。よく「叶った自分を想像しよう」と言う人がいるが、それよりこちらのほうが波動は強く、叶っていないことがどんどん叶い始める。「何か叶えたい!」ではなく、すでに“叶っている”自分をちゃんと認識すべし!

3.心の問題は身体の不調からも起きる

 前述のように、うつは“心の風邪”と呼ばれ、それは“脳の風邪”と言い換えることができる。脳は身体の一部だ。つまり、心の不調を治すには身体へのアプローチが必須だということ。しかし、身体をないがしろにしている人は多く、そのため心の不調から抜け出せない人はたくさんいる。例えば心の不調は身体、ホルモンバランスの不調からも起きる。

「生理前や更年期に気持ちが揺れ動いたり、やる気が起きないのは、その人が悪いのではなくホルモンのバランスのせいです。同じように、なんらかの理由でホルモンバランスが乱れている人は実はたくさんいる。それなのに心へのアプローチばかりやって前向きになろうとしてもなれないんです」(橋本さん)

 身体へのアプローチ法は大きく分けて2つ。「血糖値の安定=心の安定」「うつを撃退する栄養素の摂取」が挙げられる。これに大きく影響してくるのは普段の食事だ。

「私から見たら、“食事さえ変えればこの人はうつが治るのに”という人はたくさんいます」(橋本さん)

 また、回復段階によって適切なアプローチ法が変わることも強調しておきたい。かなり心が落ちている段階は身体のアプローチが先決。その状態を脱したときこそ、心理学的アプローチが初めて効果を発揮するのだ。