中学生になってもいじめは続いた

 

 “親から愛されていない”という精神的なストレスからか、食事がまったくとれなくなってしまったこともある。

「ご飯が全然食べられなくて、先生からは“このままでは死ぬよ”と言われたことがありました」

 あばら骨が浮くほどガリガリになり、病院に行くと、自家中毒と診断された。繊細な子どもが強いストレスにさらされると起きるメンタル系の病気である。栄養補給は点滴だけが頼りだった。

「病気と診断されたんだけど、お父さんはわかってくれなくて無理やりご飯を食べろって。小さな器のシチューを食べるのに1時間ぐらいかかったりして、毎日、“なんで食べないんだ!? 早く食べろ!”と言われるのが怖くて怖くて。つらかった……」

 だが現在、そんな父親をふり返り、こんなふうに言う。

「お父さんも過去にいろいろあったみたいなんですよ。家庭の事情が複雑で、父の父、私のおじいちゃんは3回ぐらい結婚していて、実のお母さんの顔を見たことがないみたい。“自分(父親)もいじめにあっていた”とお母さんが。自分が愛されて育っていないから、私を愛することもできなかったのかもしれないな、と」

自分の顔のすべてが嫌だった

 そんなヴァニラさんだったが、学校でのいじめも、家庭での状況も忘れられるような出会いがあった。それは、幼稚園のときにさかのぼる。

「おばあちゃんの家の居間にあった、フランス人形さんだったの」

 率直に愛情を示してくれ、自家中毒になったときには、心配して漢方薬を取り寄せて飲ませてくれた祖母。病気から立ち直れたのは、この薬によるところが大きい。

 祖母の家にあったフランス人形は、いじめや暴言が渦巻く人間界とは一線を画するかのようにガラスケースの中に納まり、可憐なベビーピンクのドレスをつけていた。別世界のもののようなその青い瞳と小さなあご、金髪の巻き毛は、いくら見ても見飽きなかった。

「どうしてあんなにきれいなの!? 私もあんなふうになれたらいいのに……!」

 だが、そんな夢見るようなひとときから現実に戻ると、苛酷な世界が待っている。

 可愛い子、活発な子はどこへ行っても人気者で憧れの目で見られ、さえない子や内気な子は蔑まれ、いじめの対象にされる。いじめられたくなかったら、誰かを人身御供にすることで自分自身を守るしかない。

 容姿が教室でのカーストを左右する非情な現実と、子ども特有のむき出しのサバイバルが、そこにはあった。

 “よくそんな顔で生きていられるよね─”

 おそらく自分をいじめから守るためだろう、クラスメートの女の子からこんな言葉を投げかけられたこともある。だがヴァニラさんは、彼女の言葉を否定しない。むしろ同意してみせるのだ。

「だって“確かにそうだな”って思うから。自分の顔が嫌いすぎて鏡も見たくなかった。七五三のとき、写真撮影に行くじゃないですか。一切笑えなかったんです、自分の顔が嫌すぎて。私の顔のすべて嫌だった。これは自分じゃないと思っていたから」