弱ることで増す人間味

 今回の『新版』では、現代人の共感ポイントがより増しているのだそう。

オグリは恵まれているからこそ、何か人生に物足りなさを感じている。彼の周りも、挫折して悩んでいる人ばかり。周りの仲間と地獄に落ちたら、今度は閻魔大王まで地獄のあり方に悩んでいる。

 “人間をこうして拷問するだけでいいのだろうか”って。誰もが“自分もこのままでいいのかな?”と考えさせられる作品だと思います」

 オグリは試練を受けて、どんどん人間味を増していく。

「弱るということは人間的にはつらいことです。でも猿之助兄さんもスーパー歌舞伎II『ワンピース』の公演中に腕をケガされて、当たり前にできていたことができなくなったことで “考え方が変わった”とおっしゃっていました。

 僕自身も高校生くらいのときに体調を崩したことがあって、“健康で生活するという当たり前のことが、こんなにうれしいものなんだな”と気づけましたから。そういう経験で得たものをぶつけていきたいと思っています」

 スーパー歌舞伎といえば、ケレン味たっぷりの演出やアクションも楽しみ。

「今回は、新橋演舞場史上初のダブル宙乗りがあります。劇場の上下(かみしも=左右)でふたりが同時に飛ぶので、そこは見どころになると思います。

 しかもそのときに乗る馬が、少し『ターミネーター』に出てきそうな馬なんです。衣装も“現代の荒くれ者たち”という感じになっていますし、最新技術を駆使した映像も見ごたえがあるはずです。それに、本水を使った“血の池地獄”では、びしょ濡れになって暴れますよ(笑)」

『ワンピース』や『NARUTO-ナルト-』など、新しい歌舞伎に縁のある隼人さんだが、実は古典が大好きだそう。隼人さんにとって“歌舞伎”の魅力は?

「例えば、歌舞伎には演じ方の“型”があって、歩き方なら立役と女方で方法が違うんです。立役はどんな職業かによっていろいろな歩き方があります。職人、武士、町人の歩き方、全部ノウハウがあって違う。

 演技法の確立の仕方がひとつひとつ理にかなっていて、それを作ってきた先人たちはすごいなと感じますね。日本人が好む古典のストーリーや色のセンス、様式美的な魅力にも惹かれます