大学病院の影響力が強い県と弱い県がある

 大学病院の力も、どこの地域かによって注意が必要です。大学病院の力が強い県と弱い県があります。

 関東でいうと、大学病院が強い県は群馬県です。大学病院が強い県ですと、県内どこに行っても大学病院の息がかかっています。だから他の医者に意見を聞こうと思って他の病院に行ったのに、意味がないということがあります。

 大学病院の力が弱い県ですと埼玉県です。例えば私が勤務していた大宮では、埼玉医科大学病院など埼玉県の大学病院によって支えられている病院はわずかです。東京大学や東京女子医大、帝京大学など多くの大学病院から医者が来ています。そういう場合は、同じ県内の他の医者に意見を聞いても意味があります。

 実際に、大学病院の影響が強い県で、病院にかかっていた患者さんがこう言いました。「他の病院に相談に行っても全員、同じ大学を卒業した先生だから、前の先生の意見と同じことしか言わない」。

 もちろん、医者同士がかばい合っているということもありますが、それ以上に「ずっと同じ釜の飯を食って教育を受けていたので、考え方が同じ」ということが多いです。私は出身大学以外の大学病院の先生にいろいろと指導を受ける機会がたまたまありました。すると同じ病気でも、治療方針が前に聞いたのと違うことが多かったのです。

「そんなことがあるなんて、とんでもない」「ガイドラインはないの?」と思うかもしれませんが、ガイドラインに載るような基本的なことはどこの病院でも変わらない一方で、ちょっとしたことが病院によって違うのです。手術ひとつにしても、A大学は傷口を縦につくるけど、B大学は傷口を横につくるというようにやり方が違います。ですから、どこに行っても同じ大学病院出身の先生がいる場合は、県をまたいで他の大学医局の先生に一度、意見を聞いてみたほうがいいのです。

都市部に比べて地方は「総合力が劣る」

 地方では残念ながら、医療が遅れていますから、他の県に意見を聞きに行ったほうがいいです。「地方も遅れていない」という医者もいますが、実際に地方に住んでみると満足な治療を受けられないことはよくあります。なぜでしょうか? 地方には情報が入ってこない、ということではありません。今の時代、ネットがありますし、論文もどこでも見られますから。

 そうではなく、総合力の問題なのです。現在は治療が細分化しています。すると専門というのが各大学でまちまちなのです。例えば眼科でいうと「〇〇県の大学病院は緑内障が専門だ」となると、目の腫瘍、網膜剥離(もうまくはくり)などは得意ではありません。とはいっても地元の患者さんをどうにかしなければいけない。だから得意ではないけれども、誰かが治療をします。

 一方で東京や大阪のような都市部だと、「自分の大学病院は緑内障が専門だから、目の腫瘍は他の大学病院にお願いしよう」ということができます。近くの大学病院まで30分で行けたりするからです。ですから、「一人一人の医者の能力が、地方では低い」のではなく、「医者が少ないから総合力が劣る」となるのです。

 それから、地方の場合は医者が偉そうにしているということが増えます。医者の数が少ないために、相対的に医者が偉そうにしやすいのです。とっても腹が立ちますが、なぜかというと「態度が悪くても患者は減らない」と思っているからです。忙しすぎて、「態度が悪くて患者が減るなら、むしろ好都合」とまで考える医者もいます。

 一方、都会の場合はすぐ近くに病院があるため、態度が悪くなるとすぐつぶれます。ですから「接遇が大切」という精神が根づいています(とはいっても総合病院に勤めている医者の場合は、「病院がつぶれようがどうでもいい」という考えの医者も多いので、態度が悪い人は多いです)。ですから、大学病院のほうが総合病院より、総合病院のほうが診療所より医者は態度が悪くなりがちです。