性依存症の実態

 しかし、幼いころの環境やふとしたきっかけで性依存の症状に苦しめられてきている患者さんもいます。そこで、私のもとに実際に相談へ来た「性依存症」患者・Bさん(34歳)の話を紹介します。

 Bさんは未成年時に、医療少年院と少年刑務所へ入所し、成人してからは各地の刑務所に服役し、計8回の実刑判決を受けました。それでもやめられなかったのが「ハイヒール盗み」です。

 Bさんは女性のハイヒールに異常な執着を示す男性でした。単なる盗みではなく、駅の階段などで前を歩く女性に対し、いきなりハイヒールを奪い取るのです。あまりにも異常な行為と思われるでしょうが、性依存症の典型的症例ともいえます。

 来院したのは2016年2月。服役を繰り返した末、困り果てた父親が法務官に相談したところ当院をすすめられたそうです。Bさんは小太りの体形で猫背、メガネをかけ、ニヤニヤとうすら笑いを浮かべており、異様な印象を受けました。

 3人兄弟の次男として都内に生まれ、小学2年生のときから学校になじめず、いじめを受けていました。小学校入学以前に母親のハイヒールに特別な関心を持つようになり、性的な欲求を感じるようになったのは小学校3年生。初めてハイヒールを盗んだのは、中学2年生のときだったといいます。

ハイヒールを履いた女性
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 Bさんの場合、女性が身につけた特定のものに執着するフェティシズムの典型的症例でした。ハイヒールをはいた女性を見ると追いかけて行き、左足にはいているハイヒールの踵(かかと)をつかんで盗ってしまうというやり方です。

 当然、被害女性は驚き、叫んで逃げてしまいます。「どうしてそんなことをするのか」とこちらが聞くと、答えは「自分でもわからない」。盗みがうまくいくと「スリルと快感、達成感を得られるが、罪悪感を持つことはない」と話しました。

 女性関係については、「セックスはしたいと思うけど、女性と話すことが怖くて、童貞」だと言うのです。

 彼は「性依存症」だけでなく、他人の感情への無関心や社会的規範を無視し、相手を性の対象としてしか見ない人格障害である「反社会的パーソナリティー障害」でもあります。本人と父親に性依存症という心の病気であることを説明し、当院の治療プログラムに参加してもらいました。

 当院では、初診時に患者さんごとの「リスクアセスメント」(危険度評価)を行いますが、危険度の高低にかかわらず“最低3年間”の治療を基本としています。特に最初の半年間は、集中的にクリニックへ通ってもらうようにします。

 というのも、患者さんたちは、逮捕されたり出所して間もない時期のため、精神的に追い詰められ孤立してしまうからです。そのような状態から脱するには、同じ心の病を抱えた“仲間”が必要なのです。

 プログラムの内容としては、自分自身を振り返る「自分史」をはじめ、「性依存と治療」や「性依存と家族」を学び、性依存症について書かれた本や被害者の手記などを読み、内容について考えるミーティング、認知行動療法について学びます。