キャリアと共に増える葛藤

 今年もっとも印象深いのは、日本武道館(7月)と大阪城ホール(9月)での20周年記念ライブだという。

 “演歌界のプリンス”。デビュー以来、愛情と敬意が込められたそのキャッチフレーズは、ずっとついて回ってきた。

氷川きよし 撮影/廣瀬靖士
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「デビューのときは股旅演歌を歌い、“若いのに珍しい”と、みなさんに盛り上げていただきました。本当にありがたく思っています。ただ、だんだんそのギャップがなくなっていき、ここで落ち着いていていいのかという思いがありました」

 生意気だと思われてはいけない。あまりに自分を出しすぎるのもどうか……。それぞれが持つ“氷川きよし”に誠心誠意、応え続けてきた。しかし10年後、20年後……。自分自身がわからなくなりそうな恐怖感もあった。

「40歳を過ぎ、歌い手としての成人を迎え、そろそろ自分自身の人生を歌い、自分を生きることをテーマにしてもいいんじゃないかと思ったんです。自分には幼少期から、たくさんのコンプレックスがありました。

 そんな葛藤の中、歌という表現方法を見つけた。歌うことで、そしてみなさんのおかげで、自分の苦悩や悲しみを喜びに変えられた。それを伝え、励ましを与えられる歌手になりたい。いいところばかりを見せるんじゃなく、自分の使命感をしっかり持って歌っていきたい。自分の中で得られた確信です」