『エブリ・ブリリアント・シング』の上演形態は、とびきりユニーク。出演者はたったひとりで、彼を四方から取り囲む形の客席に座った観客は、この物語の一部を担うことになる。ストーリーテラーにして主役、そして観客を物語の世界へと導く役割を果たすのは、笑顔が素敵な佐藤隆太さん。

観客を惹きつける“ちょっとした緊張感”

なんとも不思議な作品なんです。開演前に僕が客席で何人かのお客さんに番号カードを渡して、上演中に番号を呼ばれたお客さんは、そのカードに書かれたことを読んだりして参加していただきます。

  先日、アメリカの劇場で上演されていたこの作品を見に行ったんですが、すごく感動しました。最後に巻き起こった拍手がキャストだけに向けられたものじゃなくて、単語を読み上げるという形で参加した人、役を与えられた人、それを温かく見守っていた人、すべての観客のみなさんに送られた拍手だった。

 その一体となった感じが、実に感動的で素晴らしかったんですよ! だから僕も、自分が味わったあの終わり方、あの感動を、日本でこの作品を見てくださった方にも味わってもらえるようにしたいと思います」

 観客参加型というとアトラクション的なショーを想像するかもしれないが、本作はひとりの人間の人生をあぶり出す奥深いドラマだ。

「非常に繊細に練り込まれ、考えられた台本なんです。観客参加の仕方も、後になってじわじわ効いてくるところがあるんですよ。

 僕も実際に観客として参加して思いましたが“いつ呼ばれるかな?”というドキドキがあるんですよね。

 そのちょっとした緊張感が集中力を高めて、物語の世界に入り込みやすくさせている。自分の番号を言われたとき、聞き逃せないじゃないですか。

 グッとフォーカスが絞られて、感情の波がくすぐられる。これも計算なんだろうな。主人公が語ることからいろいろ想像して、その人生に入り込む感覚が、参加することによってより強くなるんですよ」