たけしが心を込めて歌った1曲

 高級バーのセットを実際に作り、本物の酒を飲みながらトークするこの深夜番組で、たけしは思いきり羽目をはずした。たかじんや島田洋七、トミーズ雅らとオフレコレベルのお笑い談議で盛り上がり、ホステス役のおねーちゃんたちの前でグラスの酒を目で飲もうとするベタなボケも披露。「どんな番組なんだ、いいのかよ」などと大喜びしながら、カラオケタイムになると、徳永英明の『壊れかけのRadio』を熱唱したのである。

 その訥々(とつとつ)とした歌いっぷりは、今回の『紅白歌合戦』に優るとも劣らない。いや、ハプニング的だったぶん、いっそう感動的だった。その選曲も含めて、たけしの本質が実は「泣き」なのではと思わされたものだ。このときの様子は彼のファンの間で、のちのちまで語り継がれることとなる。

 ではなぜ、たけしはこんな姿を見せたのか。実はこの時期、彼はひとつの節目を迎えようとしていた。翌月に公開された映画『ソナチネ』の撮影中には「もう未練はない。死ぬことも怖くない」「伝説化される事故死がいい」などと語っていたという。

 また、年末には親友の逸見政孝さんががんにより他界。逸見は『ソナチネ』のロケが行われていた沖縄に手土産を持ってふらりと訪れたりして、それをたけしがうれしそうに番組で語ったりしていた。

 逸見は'93年1月にがんの宣告を受けたが、9月のがん告白会見までたけしには深い事情を内緒にしていたという。「たけしさんが普通にできなくなる」というのがその理由だ。

 実際、たけしは親友の訃報に接し、弔辞を読むのを断るほどショックを受け、翌年8月には、自らもバイク事故で生死の境をさまようことになる。自殺願望が関係していたのでは、と報じられたほどだ。 

 そんな時期だったからこそ「泣き」を全開にしてしまったのかもしれない。そして、実は今回の「泣き」も、たけしにとっての節目というものが影響していたと考えられる。