たけしにとっての新しい節目とは

 昨年、39年間連れ添った夫人と離婚。ひっきりなしに浮気をする夫を支え、バイク事故の際も献身的に看病した糟糠(そうこう)の妻だ。と同時に、オフィス北野からも独立して、新しい事務所を立ち上げた。喪失感と希望とが混在するような胸中だったのではないか。

 人一倍、情の深いたけしは、'99年に母を亡くした際、記者に囲まれた公の場で泣き崩れた。また、娘・北野井子が歌手デビューした際には、自身の番組にゲスト出演した和田アキ子に対し「うちの娘をよろしくお願いします」と、あいさつ。その娘が子どもを産むと、'07年に『さんまのまんま』(フジテレビ系)でこんな本音を漏らした。

孫だからって感覚変えちゃいけないと思って“なんだこんなガキ”って言おうと思ってジーっと見てたら、意外に可愛いかもなって

 人情の本質はいつの世もさして変わらない。とはいえ、こうしたあからさまな表現は昭和の芸人ならではだろう。たけしのあとの世代だと、ここまで情の深さをあらわにすることは珍しくなった。

 そういえば、この年末年始には彼にとって浅草芸人の先輩にあたる渥美清さんの代表作『男はつらいよ』シリーズの新作が公開された。あの泣き笑いを好む年代の人たちが『紅白歌合戦』のたけしを支持したのだ。

 いや、それだけではない。若い人たちにも新鮮な驚きやリスペクトの念をもたらしたことを思えば、この郷愁は幅広い層に共有されるものなのだろう。

 令和の日本に、郷愁を呼び起こす。たけしはまだまだ健在のようだ──。 

PROFILE
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。